国内導入されたばかりのフラットツインスポーツ

BMWのRシリーズは伝統のフラットツイン(水平対向・ボクサーツインとも言う)のエンジンを搭載した同社の主力モデルである。中でもR-GSシリーズはオンロードもオフロードも走れるアドベンチャーの先駆け的存在で、現在でも圧倒的な性能で他の追従を許さない名車だ。
その一方でR-RSシリーズは1977年に初めて登場したBMWスポーツモデルの代表格である。
先ごろ長野県白馬村で開催された「BMWモトラッドデイズ2025」で日本初披露されたR1300RSは、その伝統のRSの名を受け継ぐ最新スポーツモデルだ。
今回は、日本に入って間もないR1300RSの試乗した印象とその歴史背景をご紹介したい。
伝統のRS=Rennsport(レン・シュポルト)の直系

そもそもこのRSシリーズとはどんなバイクなのか?その歴史は1977年の「R100RS」から始まった。
1960年代までのBMWのバイクは、非常に頑丈で耐久性に優れるため長距離走行を得意としていた。しかしレースシーン以外では、まだ風圧に対する「フェアリング」の概念が乏しい状況だった。
そこで、高速域でも快適にロングツーリングが楽しめるように風洞実験を繰り返した結果、生まれたのが初代R100RSである。
ライディングポジションでライダーの全身を覆うようなデザインのフルカウルをまとったRSは、市販バイクで初めて本格的に風洞実験を取り入れたモデルであり、世界初の量産フルカウルとして大ヒットを記録。
これが大きく評価され、これを機にBMWと言えば高速巡航性能・ツーリング快適性の高いバイクを作るメーカーと言う、確固たる概念を強烈にイメージ付けた。
ちなみにRSとはRennsport(レン・シュポルト)の略で、英語だとレーシング・スポーツという意味になる。これは1930年代から世界的なレースに参戦してきたBMWのレースマシンに対するオマージュと言われている。

市販車で初のフルカウルモデルとして生まれた。
R1250RSとR1300RSの比較

右はOHVからOHCエンジンを搭載してフルモデルチェンジを受けたR1100RS(1993年~)。
R100RSから始まったフラットツイン「RSシリーズ」はR1100RS、R1150RS、R1200RS、R1250RS、そして今回のR1300RSとGSシリーズと共にBMWの歴史を築き上げ、現代まで続いている。
開発当初のライダーの全身を覆うようなフルカウルデザインは、風洞実験の進化と共にその時代に合うように変化し、かなり大柄だったカウルは時代と共にコンパクトでスリムになってきており、最新のR1300RSは、前モデルであるR1250RSよりも、さらにシャープになった印象だ。
R1300RSは前モデルのR1250RSからどこが進化したのか?


まずそのルックスがまったく違う。
ヘッドライトはRSならではの「スプリットフェイス」を踏襲しているが、1300は非常に細くシャープなラインを描いている。ラジエーターの下方まで延びたアッパーカウルは自然にアンダーカウルとつながり、燃料タンクも1250の盛り上がった形状ではなく、滑らかなラインを描いてシート、リアへとつながっていく。


カラーリングと共に攻撃的で軽快な雰囲気を出していた。
バイクの骨格であるフレームワークも大きく変わった。
R1300RSはメインフレームを従来のスチールチューブ構造から、鍛造角フレームにアルミ鋳造のサブフレームを組み合わせることで、大幅に剛性を上げ、また質量の集中が図られた。
エンジンに関しては排気量は1254ccから1300cへ拡大。
最大出力は136ps/7750rpmから9psアップの145ps/7750へ。
トルクも143Nm/6,250rpmから149Nm/6,500rpmと6Nmアップと
エンジン関係も目覚ましい進化を遂げている。
ちなみに145psというのはBMWの量産ボクサーエンジンとして史上最強の出力を誇る。
サスペンションは、新開発の倒立式テレスコピックフォークとEVOパラレバーを採用。
フロントフォーク径は、R1250RSのΦ45mmからΦ47mmに拡大され、電子制御サスペンションの性能も向上。
リアサスペンションはストロークや取り付け部の剛性改善。
足回りもしっかりと手が入っている。
重量に関しては2kg増の245kgとなり、燃料容量は1Lマイナスの17L。
しかし全長にして60mm短く(全長2140mm)、ホイールベースだと5mm(1525mm)ほど短くなったので、わずかだがコンパクトさや軽快さにおいて進化が図られた。
最新電子制御の全部乗せ+トッピング状態
BMWの得意分野である、電子制御もこのR1300RS盛りだくさんに搭載している。
ライディングモードは標準でRain(雨天用、出力特性やトラクション制御を穏やかに)、Road(通常走行用、バランス型)、Eco(燃費優先、アクセルレスポンスをマイルドに)、オプションでDynamic(スポーツ走行向け、鋭いレスポンス)、Dynamic Pro(ライダーが細かく設定を調整可能)を選択可能。
サスペンションは2種類あり、路面状況や加減速に応じて減衰力をリアルタイム調整するダイナミックESA(エレクトリック・サスペンション・アジャストメント)をスタンダードに、プリロードの自動補正やライディングモードに応じて前後スプリングレート調整するDSA(ダイナミック・サスペンション・アジャストメント)をツーリングパッケージに装備した。プリロードの自動補正は荷物の満載や二人乗りでも、バイクが常にフラットで安定した姿勢を保ちやすくする機能だ。
またホイールの横滑りを検知し、エンジン出力を自動制御するDTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)や、シフトダウンなどでの過度なエンジンブレーキを緩和し、後輪ロックを防止するMSR(エンジン・ドラッグ・トルクコントロール)、バンク中でも最適に介入し、緊急時でも車体姿勢を安定させて制動可能なABS Pro(アンチロック・ブレーキシステム)も搭載。
さらにはオプションで完全自動変速でオートマチックなライディングが楽しめるASA(オートメイテッド・シフト・アシスタント)や前走車との車間を自動調整するACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)なども選択可能と、まさに最新電子制御の「全部乗せ」+トッピングという贅沢な仕様なのだ。
追及されたエルゴノミクス性能と快適性

実際に跨ってみてまず感じるのは、これまでの1250RSよりもやはりコンパクトになったこと。とくに1250のタンク形状は、ライダー側がかなり盛り上がっていたのが、1300はシートから自然に立ち上がるように滑らか。
ナチュラルに腕が延ばせ、そのちょうどいい所にハンドルが来る。資料によるとステップもわずかに前方に移動し、それによりフロントからの情報がより伝わりやすくなったという。
815mmのシート高は身長168cmでもしっかり足が着き、安心。シート自体は少し薄めな印象。ハンドルを握るとやや前傾気味だが、スポーツ走行と長距離走行の両方で、ベストなポジションが割り出されている。いずれにしてもポジションは非常に自然で、すぐにしっくりくる。


セルを回してエンジンをかけると比較的低く、くぐもった音でエンジンが目覚める。残念ながら始動時のエンジン音は1250RSのほうが、勇ましくパンチの聞いた音だ。しかしそれは排気ガス規制の問題でサイレンサーを小型化して、その分キャタライザーを大型化したためなので、仕方のないこと。
クラッチをつないでスタートすれば、下から充分すぎるほどのトルクでバイクは軽快に走り出す。サスペンションに硬さは感じられず、比較的ソフトな印象だ。
まずは高速道路で高速域を味わう。スクリーンは手動のハイとローの2段階式。ハイにしてライダーがやや伏せる態勢になるとヘルメットの周囲や上半身はほぼ無風状態だ。伝統のRSのコンセプトを忠実に受け継ぎ、進化させている。
高速を降りて、ワインディングを走ってみると、その走りはどこまでもナチュラルにリーンし、バンク中の制動や荷重移動にも圧倒的な安定感がある。フロント荷重がしっかりしていて、路面からのインフォメーションが多く、それでいて切り返しも非常に軽快だ。ペースを上げると顕著になってくるのがそのダイレクト感だ。
これまでの1250RSがフレームにスチールパイプを採用していたのに対し、1300は鍛造角パイプにアルミ鋳造のサブフレームを組み合わせている。高い剛性感と、挙動に対してのダイレクト感は、まさにこのフレームの進化によるものだと推測する。
ともすればそのダイレクト感は、角のあるキビキビした動きとしてぎくしゃく感を覚えそうだが、そこを電子制御のサスペンションが丸くいなしているような感じだ。これはサーキットなどでより高い次元のスポーツ走行をした際は、1250と1300で大きな違いとなって感じられることだろう。
もちろんスロットルをひねると、レスポンスよく立ち上がるトルク感は、シフトカムを搭載した最新フラットツインならでは。そこに出力不足など感じるはずもなく、勾配の急なカーブもぐんぐんと上がっていく。

そのいっぽうで、高いギアはややロング気味の印象で、高速巡行などはゆったり疲労の蓄積を軽減するような走りもできそうだ。
街中での低速走行では、245kgという車重はけっして軽くないが、重心が低いので発進や停止での安定感は高い。たたハンドルの切れ角は少ないので、Uターンなどはやや気を使うことになるだろう。
オプションでASA(オートメイテッド・シフト・アシスタント)も選択できるので、ASAでオートマチックに運転できるのなら、街中や渋滞のゴーストップも苦にならないだろう。
どんなライダーがRSを選ぶべきか

R1250RSから飛躍した進化を遂げたR1300RSは、どういったライダーに向いているのか。
ツーリングでロングの高速巡行やワインディングを楽しむ中で、よりスポーティな走りを味わいたいライダーに最適と言え、ときおり走行会などでサーキットに持ち込み、本格的なスポーツ走行を満喫したいという場合もあてはまる。
BMWMotorradには4気筒のS、Mシリーズというスーパースポーツモデルも存在するが、このシリーズだとサーキットやワインディングは楽しいがロングツーリングや市街地走行となると苦痛に感じることも多い。
そういったスポーツ性とツーリング性を、伝統のフラットツインで楽しみたいとなるとR1300RSは、まさにうってつけの1台。R1300RSはそんな幅広いシーンにおいて、しっかりとライダーのライディングプレジャーを満足させてくれるオールマイティなスポーツバイクと言えるだろう。
R1300RS 製品スペック





1932年にBMWが初めて世に出した「R32」から100年以上、連綿と続いている。


エンジンがコンパクトになった分、ロング化され直進安定性が増した。



4ピストンラジアルキャリパーという強力なストッピングパワーを搭載。

トラクションコントロールやブレーキの数値を記録できる。


もちろんグリップヒーター、シートヒーターも装備で旅機能も満載だ。








