MENU
カテゴリー

本気のオフロード性能にベタ惚れ BMW R 12 G/Sはガチのオフロードバイクだった

※記事内容は全て執筆時点の情報です。

2025年6月上旬にドイツでBMWモトラッドの新型モデル試乗会が開催されました。この試乗会で、いま話題のニューモデルR 12 G/Sに試乗してきました。今回は車両の詳細と試乗した印象についてお届けします。

R 12 G/Sは2024年に発売されたR 12 nineT / R 12の派生モデルです。BMWは2013年にヘリテイジモデルR nineTを発表。R nineTはそれまでのBMWのイメージを覆す、カスタムのしやすさを打ち出したヘリテイジモデルとして、以降世界中のカスタムシーンで大きな人気を誇っています。その誕生から10年、BMWはR nineTの後継モデルとしてR 12 nineTとR 12を発表しました。R 12 nineTはR nineT直系のスポーツテイストのヘリテイジモデルで、いっぽうのR 12はそれまでのR nineTシリーズでは存在しなかったクルーザースタイルを持つモデルとしてデビューしています。両車は前後ホイール径やサスペンション、エンジンの出力にこそ違いがありますが、基本的には同一のフレームと伝統的な空油冷ボクサーエンジンとシャフトドライブを採用するモデルです。

R 12 nineTの派生モデルとして登場したR 12 G/S。写真はOption 719のサンドローバー・マットというカラー。

前置きが長くなってしましましたが、R 12 G/SはR 12 シリーズの派生モデルとして、オフロード性能にフォーカスして開発されています。その証拠に、フロントフォークは210mmのストロークを誇る専用の倒立フォークを採用、さらにリアサスペンションは200mmのストロークを持つ専用品を装備しています。ノーマルのR 12 nineTのサスペンションストロークは前140mm後ろ140mmなので、足周りの構成はまったく異なります。さらに、外装やマフラーなど各部の装備も専用品を採用。フレームはR 12シリーズをベースにしていますが、「足長化」したサスペンションに合わせて、ステアリングヘッド(フレーム前端部分)やサイドスタンド取り付け部など一部を変更しています。つまりR 12 G/Sは専用フレームを採用しているということになります。

フロント21インチのホイールを装着、サスペンションストロークも長くまさにオフロードバイクといったポジション。

今回の試乗ではドイツにあるBMW所有のオフロード施設「エンデューロパーク」をメインに行いました。R 12 G/Sの試乗は1日で、午前中は主にオンロードへ、午後はエンデューロパークにてガチンコのオフロード試乗に挑むというスケジュール。日本から参加した筆者はまずドイツの一般公道での試乗に出かけました。用意されたのは赤いフレームに茶色の外装を装着したOption 719と呼ばれるBMW純正オプションラインのモデルです。筆者は2017年からR nineT アーバンG/Sを愛機としており、現在2020年型を所有しています。

R 12 G/SはアーバンG/Sの後継モデルに当たるということもあり、個人的にも相当な期待をして試乗に臨みました。実際に実車を目にして感じたのは、まず車高が高い!最低地上高のシート高も見るからに純然としたオフロードバイク。アーバンG/Sは言ってしまえば、「なんちゃってGS」とも言えるモデルであり、メインのフィールドはストリートなのです。もちろん、オフに行けないこともないですが、ポジションからサスペンションのストロークまで実際のオフユースにはそれなりに厳しい部分が多いことも事実。とはいえ、オーナー本人としては「ストリート95%、オフロード5%」というようなアーバンG/Sの「G/Sとは名乗ってはいるもののの、本気のオフじゃない感じ」がお気に入りだったこともまた事実だったりします。それからすると、ひと目でR 12 G/Sがガチのオフロードモデルだったことはある意味衝撃的でした。

オンロードで初試乗!一瞬でわかった足周りの良さ

オンロードでの試乗で使用したのは、リアに17インチのクロススポークホイールを履くモデルです。R 12 G/Sでは、フロントに21インチのクロススポークを装備していますが、リアホイールは17インチと18インチの2種類を用意しています。18インチを装備するのは、さらにオフロードでの走行に特化したパッケージ。ホイール径が1インチ大きい分、タイヤ外径も大きくなり、最低地上高が確保できるほか、ブロックタイヤのチョイスも広がります。今回オンロードで試乗したリア17インチ仕様はピレリのカルーストリートを履いていました。走り始めてまず感心したのはサスペンションの良さ。ストロークもたっぷりなサスペンションは乗り心地も良好。ソフトでありながらしっかりコシも感じられて、これならオフロードでも気持ちよく走れる!とすぐに確信しました。

まずはオンロードで試乗。一部フラットダートも走行しましたが、17インチモデルでも走破性は十分。

というのも筆者はこれまでR nineTアーバンG/Sのリアサスペンションに大きな不満を持っていました。サスペンションがシート真下で直立するようにマウントされる旧R nineT系モデルやアーバンG/Sは、オンロードの走行でも路面の凹凸がそのままシートに伝わるような印象で、筆者はいまもなおリアサスペンションのアップグレードを考えているほど。しかし、R 12 nineT/R 12からは、フレームが変更されたことに伴って、リアサスのマウント方式が変更。大きくリアサスペンションが寝かされるレイアウトとなって、R 12系のモデルでは乗り心地が格段に向上したのです。R 12 G/Sはそこからさらにストロークが伸びているので、ショック吸収性や路面追従性はさらに良くなった印象です。ただ、前後サスペンションのストロークに余裕を持たせた分、当然のようにシート高は大幅にアップ。リア17インチモデルでもシート高は870ミリとかなり高めです。小柄な筆者だと両足の接地は無理で、片足をついてもかかとが浮くような状態。とはいえ、車体はスリムで重心バランスも良いので乗り降りや停止する際にも恐怖感はなし。

フロント21インチホイールでもコーナーリングはそれなりに楽しめます。

また車高やシート高が高いので走行中はとにかく見晴らしが良い印象です。特にコックピット周辺は現行のGSモデルや、他社のアドベンチャーバイクと異なって、大きなカウルやスクリーン、大型ディスプレイなども装備していないので、フロントホイール周辺もよく見渡せます。感覚的には70年代や80年代のビンテージオフロードモデルと同じような印象です。また、シートとハンドル、そしてステップの位置関係もR 12 G/Sでは丹念に設計されていて、すべての位置関係が自然。筆者の愛機であるアーバンG/Sは前後に長い燃料タンクとアップハンドルながら高さを抑えたハンドルを採用しており、ややハンドルが遠く感じられ、スタンディングをする際にも自然なポジションを取りづらいなぁと日々感じていました(*筆者の愛車ではハンドルをややアップにしつつ手前に引ける社外品のライザーを追加)。そうしたこともあってアーバンG/Sではやる気満々でオフに繰り出そうという気はあまり起きませんでした。しかし、R 12 G/Sではこうしたネガはすべて解消されています。走り始めてすぐにシッティングポジションとスタンディングポジションを確認しましたが、一瞬で「これならいける!」と確信したほど。

オンロードでは高速のワインディングをはじめ、フラットダートまで走行しましたが、どのステージでもサスペンションはしなやかでしっかりとコシがあり、爽快な走りを楽しめました。ワインディングでは80-90km/hのハイペースでの走行を楽しみましたが、サスペンションはストロークがあるからといってブレーキングでヒョコヒョコと不快なピッチングも起きず、それなりにコーナーを楽しむことができました。タイヤをロード寄りの銘柄に変えればもっと楽しめるでしょうね。

基本的な車体構成はR 12 nineT譲りですが、フレーム前半を中心にR 12 G/S専用設計に。

エンジンはR 12 nineTと同じ108馬力の1200ccの空油冷ボクサーエンジンで、ライディングモードはRoad、Rainのほかにオフ用のEnduro、Enduro Proモードを装備。アーバンG/SではEnduroモードこそありましたが、トラコンやABSの効き具合を好みに調整できるEnduro Proモードは用意されていなかったので、ここは大きく異なるポイントです。また、シフトチェンジについても現行のR 12系と同様に、クラッチレバーの操作なしで変則可能なシフトアシスタントProを装備。R 12 nineTやR 12の試乗でも感じたことですが、この装備は本当にうらやましい! シフトダウンも綺麗に決まるし、特に全開でシフトアップしていくような時には胸の空くような気持ちよさなのです。R 12 G/Sに乗れば乗るほど、アーバンG/Sにはない装備に嫉妬してしまいます……。

オフロードで感じたR 12 G/Sのポテンシャル。これはピュアオフロード!

ここはBMW所有のオフロード施設、エンデューロパーク。普段は一般向けのトレーニングをおこなう施設です。

午前中に舗装路での走行を終えて、いよいよ待望のオフロードへ。ヘヒリンゲンという街にあるBMWの施設エンデューロパークは、広大な敷地の中に林道からフラットダート、けもの道、広大な砂利のフィールド、岩を敷き詰めたような人工的なセクションなど様々なコースを持つオフロード施設です。

広大なフィールドには様々なセクションを用意。写真に写っているのはほんの一部。

ここでリア18インチホイールやハンドルライザー、オフロード用のステップなどを備えたエンデューロパッケージの車両に乗り換えました。リア18インチのR 12 G/Sは先ほど試乗したリア17インチモデル以上にシート高が高く、オフロードブーツを履いた状態でも小柄な筆者では片足の爪先がやっと接地するレベル。正直、このパッケージングでひょいひょいと乗りこなせるのは体格に恵まれていないと厳しいかもしれません。とはいえ、ここで怯むわけにもいかないのでいざコースへ。

会場には初代GSのR 80 G/S、R nineTアーバンG/S、R 12 G/S(リア18インチ版)を展示。アーバンG/Sと比較すると格段にサスペンションが長く、地上高も確保されていることがわかります。

カルー4を前後に履くR 12 G/Sに乗って広いフィールドでウォームアップ。リアの車高が1インチ上がっただけですが、視界はさらに高くなった印象です。また、2cmアップのライザーが追加されていることもあってハンドルはかなり高め。小柄な体格だとハンドルがやや高すぎる、というのが正直な印象でしたが、いざスタンディングポジションを取るとそれはそれで乗りやすい。さらにワイドペグを採用する専用フットレストはオフロードブーツの使用が前提とあって、しっかりと車体をホールドできます。

試乗コースはフラットなダートの広場から撮影を絡めながら、ガレ場のきつい上り坂を登ったり、バイク1台しか通れないようなけもの道を抜けたり、森のなかで一年中地面が湿っているようなヌルヌルの湿地帯を抜けたり、時に大きな水たまりをクリアしたり。エンデューロパークにはオフロード走行で遭遇するようなあらゆる状況が用意されています。その各場面で体感したのは、R 12 G/Sの扱いやすさでした。オンロードで確信したサスペンションの良さはオフロードではさらに際立ったものに。

大きな岩がころがるロックセクションやガレ場、ちょっとしたジャンプができるスポットでも前後にサスペンションはつねにしなやかにショックを吸収します。電子制御サスではないものの、その動きにまったくの不満もありません。そしてシート下で程よく絞り込まれたフレームと、シートとタンクがなだらかにつながる外装デザインは、車体が振られるような状況でもつねに下半身で車体をしっかりとホールドができる。いままで自分のアーバンG/Sではなかなか難しかったオフロードでの車体コントロールがいとも簡単にできることを実感しました。もちろん、ハンドルやステップの位置関係もまさにオフロード向け、といった印象です。

何より感動したのはエンジン制御の良さでした。Enduroモードではアクセルオンでのリアスライドもある程度許容してくれます。とは言っても、ある程度スライドが続いたところで制御が入り、スライドはストップ。筆者んようなビギナーだと開けすぎてスライドしすぎるのが常ですが、安全な範囲で制御が入るので思い切ってアクセルを開けられるのです。また、ガレ場の登りなど、リアホイールが空転しがちな状況であっても制御は常に効いていて、アクセルを開いた分だけちゃんとトラクションとしてマシンを前へと押し進めてくれます。この安心感を知ると、いままで自分のスキルでは難しかったセクションでも常に安全にマシンをコントロールできるので、より走りに集中できます。加えて、シフトアシスタントProを装備しているので、クラッチ操作に気を使う必要がなく、よりラインどりやスロットルワーク、ブレーキ操作に集中できるのも大きなポイントです。

この日一番の難所は、水分をたっぷりと含んだサンド質のぬかるみ。写真で見る以上に走りづらいセクションで、フロントタイヤが右に左に……と落ち着かない状況でしたが、優秀な電子制御のおかげで思いっきりアクセルを開けてクリア。

さらにブレーキも最新世代のABS Proへと進化しており、特にオフロードの走行では威力を発揮します。例えばダートでのブレーキングでフロントブレーキを使う時、強く握りすぎると前輪からズルッと転んでしまうのではないか……とか、思ってしまいますが心配はご無用。オフロード走行にも対応するABSは、舗装路と同じような感覚でフロントブレーキが使えるのです。エンデューロパークでの走行ではガレ場の下りやぬかるんだ路面も走行しましたが、躊躇せずにフロントブレーキを使用できました。また、Enduroモードではリアのブレーキスライドも可能なセッティングになっているので、リアブレーキを使ってちょっとだけリアを流して向きを変えてみようとトライしたときにも、決して滑りすぎてスピン状態に陥ったり、思ったより滑らずに違和感を覚えたりすることもない極めて自然なフィーリングでした。筆者はオフロードビギナーなので派手なアクションはできませんが、それでもなんとなく車体を振り回してオフロードで遊ぶ、という感覚を安全に楽しめたのでした。

パーク内にはこんな大きな水たまりも。水たまりのそこはぬかるんでいて不用意にアクセルを開けると車体が大きく流れますが、ここもトラクションコントロールの優秀さのおかげで難なくクリア。

2時間以上にわたるオフロードの試乗を終えて感じたこと。それはR 12 G/Sがピュアなオフロードバイクであるという事実でした。アーバンG/Sオーナーからすると、いままで欲しかった装備がすべて追加されている、という事実はもはや嫉妬しかありません。アーバンG/Sはストリートメインでたまにオフ、そんな遊び方を提案するモデルでしたが、はっきり言ってR 12 G/Sはその真逆のキャラクターです。

見比べるとひとめで違いがわかるR nineTアーバンG/SとR 12 G/S。車高以外で大きく異なるのはタンクの長さ。R nineTシリーズのタンクはロングタンクゆえに、オフロードで気持ちよく走るにはポジションの改善が必須。

街乗りメインの筆者にはアーバンG/Sが合っているのかもしれませんが、やはりオフロードへの憧れは捨て切れません。そんなこともあって、R 12 G/Sはいま一番欲しいバイクの筆頭です。可能であればアーバンG/Sは街乗り用に残して、R 12 G/Sをオフ専用として増車したい、そんなことを考えていたり。BMWにはR 1300 GSを筆頭にF 900 GSなどアドベンチャーモデルが豊富に揃っています。そんな中にあってR 12 G/Sは既存のGSシリーズと同等のオフロード性能を持つバイクであることは間違いありません。オフロード上級者にとっても、R 12 G/Sは間違いなく良い相棒となるでしょう。

カテゴリー

モトメガネ バイク買取一括査定

目次