「レーサーレプリカブーム、ビッグスクーターブームなど、バイク業界にはいくつかのブームが巻き起こりました。2000年代始めの「トラッカーバイク」もその一つです。流行は一過性のもの。ブームが過ぎ去った後のバイクはどうなるのでしょうか。ヤマハTW200のヒットに続く二匹目のドジョウを狙った「カワサキ250TR」の消息を追いました。
いきなりトラッカーバイクブームが到来
1990年代末、突如としてトラッカーバイクのブームが巻き起こりました。ブームの火付け役は1987年に発売された「ヤマハTW200」です。本来はマニアックなモデルでしたが、スリムな車体や太いリアタイヤなど個性的なスタイルがカスタムベースとして注目され、新たなトレンドになりました。
TW人気を不動にしたのが、2000年1月に放送されたドラマ「ビューティフルライフ」でした。主演の木村拓哉さんが乗っていたカスタムされた水色のTW200が話題になり、バイクに興味のない人も巻き込む事態になりました。二匹目のドジョウを狙ったホンダはFTR223を投入。こちらもスマッシュヒットしました。
カワサキも三匹目のドジョウを狙う
「いいなー、いいなー。ウチも何かあるやろ?」と、カワサキが古いガレージから引っ張り出してきたのが「250TR」です。初代250TRは、1970年に発売されました。TWやFTRが80年代のトラッカーであるのに対し、250TRはトレール車です。
空冷2ストロークエンジンを搭載。クラス最高の23馬力を発揮しました。「パイソン」というペットネームが付けられていましたが、他と商標が重なってしまい、僅か1年で商標抹消された気の毒なヤツでした。
2003年に発売された「250TR」は、なんちゃってダートバイクです。パワーユニットは、エストレヤの空冷4サイクルSOHC 2バルブ単気筒エンジンをそのまま搭載。特別なチューニングは行われていません。2007年に排ガス規制に対応するべくエストレヤと一緒にFI化しています。
オシャレでナウなヤングにバカ受け!
「気軽で自由に乗れる、街乗り用スポーツモデル」のキャッチコピーの通り、初期モデルの新車価格は35万円を切る安さ。ビンテージバイクをイメージし、パワーは抑え気味の14kW 19PS/7500rpm。流行に敏感な若者がターゲット。バイクの販売台数が伸び悩む2000年代初頭において、カワサキは年間販売予定台数 8,000台という大風呂敷を広げました。
その狙い通り多くのバイクビギナーが飛びつきました。「取り回しやポジションの楽さが良い」「街乗りや近くのショートツーリングなどに最適」「気軽に乗れて疲れない」「末長く乗れるバイクだと思う」など評判も上。ブームから定番に昇華すると思われましたが…
流行はいずれ終わる運命
流行は一過性のもの。トラッカーブームはあっという間に廃れ、中古車がダブつく供給過多になりました。しかも売れ行きはサッパリ。カスタムされた車両が多く「他人の手垢がついたようなバイクに乗りたくない」と思う人が多かったのかもしれません。
取材に協力いただいたショップの250TRはノーマルをキープしていますが、あちこちにサビが浮いていました。カバーをかけられることもなく、長らく野ざらしにされていたのでしょう。ショップに入荷してから何年も経過しました。メーターは約8,600㎞で止まっています。
再び走れる日を待っている!
カワサキは、250TRを「自分のライフスタイルに合わせて個性的に乗りこなせるストリートファッションバイク」と紹介していました。しかし流行遅れになったバイクは、まるで殺処分を待つペットのよう。250TRから「もっと走りたい」という声が聞こえた気がしました。