ストリートでの使い勝手の良さと軽快なハンドリング
BMWにおける「ロードスター」という立ち位置

2023年末に発表されたR1300GSを皮切りに、R1300RT、R1300RS、そしてこのR1300Rと、フラットツインシリーズは遂に定番の全モデルが揃ったことになる。
BMWにバイクにおける「R」とは「ロードスター」を指すバイクであり、いわゆる国産で言うところのベーシックでシンプルなネイキッドのことだ。現在では、このR1300Rを始め、S1000R、F900R、G310Rと充実した走りのラインナップを誇る。
その歴史は、1991年に登場したR100Rロードスターに始まり、OHC化された1994年には、R1100RとR850Rの2機種のロードスターが登場。これらは、当時のBMWの主力だったツアラーとは異なり、最新技術を投入しつつもシンプルで親しみやすいベーシックで、スタンダードで、クラシックなモデルとして開発され、主にストリートでの使い勝手の良さと軽快なハンドリングが特徴だった。
BMWのロードスターシリーズは時代の要求に応じつつ、伝統的なフラットツインエンジンに最新技術を掛け合わせ、シンプルかつ親しみやすいモデルとして進化し続けているのだ。

R1300Rは前モデルのR1250Rとどう変わったのか?

ストリートファイターに近いスリム&コンパクトさだ。

エンジンのフィーリングはこちらが好きというライダーも少なくない。
今回リリースされたR1300Rは、前モデルであるR1250Rとどう違うのか、その具体的な変更点を比べてみたい。
デザイン:直線基調のシャープな雰囲気に
その全体的なデザインは見てすぐに違いがわかるほど明確。1300はかなり精悍でシャープなエッジの効いたデザインが特徴だ。特にヘッドライト周りはLEDのデイタイムランニングライトを採用。これまでの概念をがらっと変える印象で、まさに1300らしい顔つきだ。ボディラインも1250は丸みを帯びているのに対し、1300は直線基調で鋭角な印象。

左右のデイタイムランニングライトが、シャープさを際立たせる。
シャーシ:新設計のフレームで剛性バランスを最適化
1300と1250ではまず骨格であるフレームがまったく違う。1250はメインにスチールの丸型パイプフレームを採用していたのに対し、1300は新設計のスチール製角型メインフレームとアルミ製リアフレームを組み合わせ、剛性バランスを最適化している。
ホイールベースは5mm短い1510mmで、キャスター角が129.6mmから127mmで2.7mmと立った。わずかな数値だが、小回りの旋回性能が上がったことになる。

そこに流れるようにタンクとシートがのる。
エンジン:パワー&トルクが大幅アップ
心臓部であるエンジンは、排気量を1,254ccから1300ccへ46ccアップ。パワーは136PSから145PSへ9PSもアップ。同時にトルクも143Nmから149Nmへ6Nmと増した。1300のエンジンは新型設計で圧縮比上昇、ストロークやボアも変化されている。
サスペンション:オプションでスプリングレートを自動調整するDSAを設定
サスペンションはフロント倒立式、リア、パラレバースイングアームで、前後のストローク量は140mm/140mmと変わらないものの、オプション設定で、世界初となるスプリングレート可変機構付きDSA(ダイナミック・サスペンション・アジャストメント)が選択できる。これは荷重や路面状況に応じて、減衰力とバネの硬さを自動で調整してくれる優れた機構だ。

同じホイールベースでも直進安定性が向上している。
電子制御:ライダーの疲労を軽減し、走りに集中できる機能を満載
他の1300シリーズ同様、電子制御も盛りだくさん。DTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)、DCC(ダイナミッククルーズコントロール)、MSR(エンジン制動トルク制御)、ABS・Pro(傾斜角対応型フルインテグラルABS)を標準装備。オプションでは、ACC(アクティブ・クルーズコントロール)やFCW(フロントコリジョンワーニング・前方衝突警告)など。これらの装備は、スタンダード、ツーリングのモデルの仕様によって異なる。

それでも慣れてしまえば迷わず操作可能だ。
快適装備:タイヤ空気圧センサーが標準で搭載
シートヒーター、グリップヒーターは1250でも装備されていたが、1300ではタイヤ空気圧センサーやUSBソケット、リアのシートヒーターも標準で搭載されている。

ヘラーソケットはメインシート下にあるので電熱ウエアを着る際も安心だ。

シート高:前モデルより足着き改善!
R1250Rが820mmに対し、R1300Rは810㎜(スポーツサスペンションは820㎜)と10mmほど低くなり、足つき性も向上した。

両足とも前半分つくので、信号待ちや低速Uターンも安心だ。
車両重量:前モデルと変わらず
車両重量は1250、1300共に239kgで同じ数値(ドイツ工業規格DIN 空車時、走行可能状態、燃料満載時の90%、オプション非装備)。
燃料タンク容量:容量は1L減ったが、ポジションの自由度はアップ
タンク容量は1250が約18Lなのに対し、1300は17Lと1L少ない。公表燃費は1250が21.05 km/L、1300が20.8km/Lなので、航続距離は1250が378km、1300が約353kmとなり、1300はやや短い計算だ。

前への荷重がかけやすく、ポジションの自由度が広がった。
今回はASAに試乗した!

今回試乗した車両はASAモデル。ASAとはオートメイテッド・シフト・アシスタントの略で、いわゆるオートマチックで変速してくれる機構だ。
まず乗る前の取り回し。スリムな車体はとても1300ccあるリッターバイクに思えないほどコンパクトだ。押し引きも軽く、女性や初心者、小柄なライダーでも楽に取りまわせるだろう。
シート高は810mmなので、このクラスとしては平均的。筆者は168cm78kgで両足の半分が接地するので不安感はまったくない。
イグニッションボタンをオンにして、ブレーキを握りながらセルボタンを押すとエンジンが始動。R1300系の排気音はややくぐもった軽やかな感じで、R1250系のほうがパワフルで勇ましい印象だ。
ASAの場合は、クラッチレバーがないので、ブレーキを握りながらシフトペダルを踏み込むと1速に入る。そのままアクセルを開けると、車体は実にスムーズにするすると走り出す。

握力の少ない女性や手の小さいライダーにはとくにおすすめ。
このR1300Rには従来のモデル同様にライディングモード設定がある。レイン、ロード、エコが標準で、オプションでダイナミック、ダイナミックPROを選択可能だ。今回は基本のロードモードで乗ってみる。
加速していくとASAが右手と連動して勝手にシフトアップしていく。最初はやや自分のシフトタイミングとずれて妙な感覚だったが、10分ほど乗ると人間側が慣れてくる。それでも慣れない場合は、自分でシフトペダルを操作できるので、好きなタイミングでチェンジすればいいだけ。モードは完全自動のドライブモードに加え、ギア位置を固定できるマニュアルモードもある。筆者の場合はドライブモードで、自分のタイミングでシフトチェンジする方式だった。
このように完全にバイクにまかせてもいいし、自分で操作してもいいという自由さが好印象。加えて、まったくクラッチ操作をしなくていいので、市街地のストップ&ゴーや、高速の渋滞などは本当に楽だ。特に握力の少ない女性や、手の小さなライダーには最高のシステムと言えるだろう。
あふれ出るライディングプレジャー

今回は市街地と高速道路、湾岸地帯の高速コーナーなどを走ってみたが、常に感じるのはバイクを操っている感覚。コンパクトでキビキビと走るので、とにかく軽快で楽しい。
パイプハンドルによるポジションはやや前傾姿勢となり、従来よりも低く、手前に設置。峠のワインディングやサーキットに持ち込むなど、スポーティなシーンでその真価を発揮する。
1300になったエンジンは低速域から高速域までトルク感にあふれ、吹け上りもスムーズ。とにかくダイレクトで「カチ」っとした挙動はフレームが大幅に進化した影響だ。
もちろん一番楽しさを感じるのはコーナリングだ。シフトダウン、ブレーキングからの倒しこみは、少しひざを入れてやればどんなタイトコーナーでもすっと曲がっていく。立ち上がりの加速もスムーズでパワフルだ。
1250でも充分に軽快な印象だったが、この1300Rはそれよりもさらに軽やかでひらひらと走ってくれる。ネイキッドというよりは、全体的な戦闘力があがったのでストリートファイター的な要素が濃くなったと言ってもいいだろう。
ネイキッドというスタイリング上、高速道路でのウインドプロテクション性能はRSやRTにかなわないものの、軽快さや気軽さという点ではRに分があるのは間違いない。


乗る人を選ばないオールラウンドプレーヤー

ひと昔前の1300ccクラスのネイキッドと言えば、大きくパワフルで迫力もあり「憧れ」的要素の強いモデルも多かった。しかしその分、大きさや重さはネガとなり、初心者や女性が扱うのは厳しいモデルばかりだった。
しかしこのR1300Rに、そのネガは当てはまらない。初心者や女性が乗っても扱いやすく、ベテランライダーが乗れば懐の深いスポーツ性能を引き出す喜びを与えてくれる。さらっと乗れるので、ちょっとコンビニや買い物に行くにも気負うことがなく、週末はワインディングでハッピーになり、その気になればサーキット走行だって、ロングツーリングだって可能だ。

全体的にスリムだが、ここだけマッチョな印象だ。
さらに価格帯だが、R1300シリーズは以下の設定。
R1300GS・285万円~
R1300RS・220万0000円~
R1300RT・369万1000円~
R1300R・211万9000円~
※いずれも税込み価格
装備や車体がシンプルでベーシックなため、コストパフォーマンスもかなり高いのだ。
R1300Rのバリエーションは、スタンダード、ツーリング、ASAとあり、それぞれ装備や制御、カラーリングが異なるので、詳細はBMWMotorradのサイトでご確認を。
初心者からベテランまで誰もが楽しめ、オールラウンドプレーヤーでコスパも最強のR1300Rをアナタのバイクライフの相棒としていかがだろうか。
R1300R スペック












