バイクのライディングの基本は〝ライポジにある〟と、前回の特集で紹介した。
自分にあったライポジが取れるようになれば、砂が浮いていたり、雨で滑りやすかったり、はたまた砂利の駐車場など、滑りやすい路面でもより安定して走ることができる。
とはいえ、最適なライディングポジションは、あくまでも安定して走るための第一歩。
次にマスターしたいのはアクセル操作とシフト操作だ。
「そんなの簡単じゃん!」と思うかもしれないが、単純だから奥が深い。
そもそも舗装路では問題なく走れてても、滑りやすい路面でバイクが滑ったり安定しないのは、雑な操作をしているからに他ならない。
今回もエンデューロチャンピオン渡辺学選手にオフロードを安心して走れるようになるコツを伝授してもらおう!
前後のサスペンションに手を加えたテクニクスのレンタル車両「YAMAHA SEROW250」を使って、マナブ先生のライディングスクール第2回の開講だ!
クラッチレバーの操作が走りを変える⁉
バイクの走行性能を最大限に引き出すためには、クラッチレバーの適切な操作は欠かせない。
クラッチ操作ひとつでスムーズな加速や減速、コーナリングが変わるため、自分の走り方にあった使い方を習得したい。
前回のオフロードをライディングするときのポジションでも述べたが、ライダーの体格はそれぞれ違うため〝これがベスト!〟という最適解は存在しない。
あくまでも自分がライディングしやすい方法をしっかりと模索することが重要だ。
その最適なオフロードライディングを見つけるための方法の一つとして、今回も記事を読み進んでほしい。
レバーの角度と腕の角度
クラッチレバーの角度は、ライダーの腕や手首の負担を軽減するために非常に重要だ。
よくある肩、腕、指先までが一直線になるレバーの角度が、クラッチレバー&ブレーキレバーの最適な角度とされている。
しかし、マナブ先生はその一般的に言われるセオリーとは違ったのだ。
「一般的に言われるレバーの角度でも、自分が操作しやすければそれで問題はありません。
ただし、自分はレバーの角度は水平よりも少し上を向いています。
これは、エンデューロレースで長時間走ってレバー操作をしたときに、筋肉がなるべく疲れないようにするためです。
腕から指までをまっすぐに伸ばした状態でレバーを操作すると、前腕の下側の筋肉が主に使われます。
でも、手首を少し反らした状態でレバーを操作すると、前腕の上側の筋肉が使われます。
試しにそれぞれの形で、レバー操作をする動きを取ってみてください。使われる筋肉が違うことを体感できるはずです。
これは自分の経験則なのですが、前腕の上側の筋肉を使う方が、下側の筋肉を使うよりも筋疲労が小さいんです。
筋疲労が小さいということは、長時間のライディングでも疲れからくる集中力の低下が起きにくく、ミスを起こしにくいことにつながります。
それもあって、レバーの向きを水平よりも少し上向きにして、手首が少し上側に反るような腕のポジションを作っています」とマナブ先生。
レバーの角度は車載工具などで簡単に調整できるため、自分にとって操作しやすいポイントを探してみてほしい。
まずは基本となる腕と指先がまっすぐになる角度に合わせ、下向き、上向きとそれぞれ試してみるのがよいだろう。
【レバーの角度はいろいろ試してみるべし!】
これが正解!という誰にとっても最適解というのがないのがバイクのライディングの奥深さでもある。
有名ライダーがこう言っていたから、とか、雑誌で書かれていたから、と言う理由で自分で考えることを放棄することなく、まずはいろいろ試してみることが大切。
経験をもとに、自分の最適なライディングを見つけていけばいいのだ。
レッツチャレンジ‼
レバーに掛ける指は何本?
自動車教習所で二輪教習を受けた人なら、指導員から「レバー操作は4本指」と言われたことだろう。
これは、4本指を使うことで、レバーをしっかりと最後まで握ることができ、適切なクラッチの切り離しや、ブレーキの最大制動力を引き出すことができるという考えから。
でも二輪免許取得後には、2本指でレバーを操作しているライダーも多いのではないだろうか? クラッチ操作に関しては昔のバイクと比べたら少ない力でレバー操作できるようになっているし、ブレーキも高性能化していることから、2本指の操作で十分事足りることが多いからだろう。
さて、オフロードではどうなのだろうか?
「路面の荒れたオフロードでは、轍(わだち)や石や木などの障害物にヒットしてハンドルが取られることが考えられます。そんな状況で4本指をレバーに掛けてハンドルを握っていたら、バイクが受けた衝撃で簡単にハンドルから手が離れてしまいます。ハンドルから手が離れてしまえば、バランスを崩して転倒することが容易に想像できることでしょう。
そんな状況に陥らないためにも、ハンドルをしっかりと握ることが大切です。
ですので、オフロードではレバー操作は1本の指、人差し指で行うことがほとんどです。
握力のない人や手が小さい人は厳しいかもしれません……。
レバーの位置を調整するなどして、少ない指でレバー操作できるようにしていきましょう」
【ハンドルをしっかりと握ることが重要!】
オフロードだから1本指で操作するのではなく、ハンドルをしっかりと握るために多くの指でハンドルを保持する、というのが目的。
少ない指でも操作しやすいよう、レバーの位置、角度をいろいろ試して、自分の中でのベストポイントを見つけたい。
レバーのどこに指を掛ける?
レバーのどこに指を掛けて操作するのか?意識したことはあるだろうか?
大多数の人が〝なんとなくこの辺かなぁ〟という感じでレバーに指を掛け操作していることだろう。
マナブ先生はより効率的で楽に操作できるよう、レバーに指を掛ける位置にもこだわっているのだ。
「一般的にはレバーが一番くびれている箇所に指を掛けているんじゃないかと思います。
レバーのくびれ部分に指を掛けるので、収まりはいいんですよね。
でも、クラッチ操作をするのに、意外に力を使うんです。
テコの原理で、支点(レバーのピボット)から力点(指を掛けている)の位置が近いからそうなるわけです。
そこでレバーのピボットからなるべく遠くの位置に指を掛ければ、レバーを操作するために必要となる力は小さくて済むわけです。
レバーの角度でも言いましたが、オフロードを走る上で、余計な力を使わないことは、疲れてミスをおこさないことにつながります」
【マナブ先生がクラッチレバーに常に指を掛けている理由とは?】
マナブ先生をはじめとする、エンデューロレースやモトクロスレースで走っているライダーは、常にクラッチレバーに指を掛けている割合が高い。
これは、タイヤのトラクションを調整する時に、スロットルの明け具合で微調整するよりも、クラッチのつながり具合で調整した方が瞬間的にトラクションをコントロールできるから。
身体の動きを考えてみても、右手の手首を動かすより、左手人差し指を〝チョン〟と動かすだけなのだから、無駄が少なく素早く操作できるというわけ。
なにもエキスパートライダーだけがこの恩恵に預かれる訳ではない。
ビギナーライダーがオフロードを走っていてスロットルを不意に大きく開けてしまい、上半身が置いて行かれ腕が伸びきってしまうようなシチュエーションがあったとしよう。
腕が伸びきったような状態でスロットルを閉じる動作はかなり難しい……。しかし、クラッチレバーに指が掛かっていたら、クラッチレバーを握るだけで動力をカットできるから、バイクの暴走を防ぐことができるのだ。そもそも、そのような状況で冷静に対処できるかは、ライダーの慣れと練習が必要にはなる。
レバーの外側を握りやすいよう、レバー位置を調整
レバーの外側に指を掛けようとしたら、場合によってはグリップのかなり外側を握ることになる。
そのポジションでも問題ないライダーならいいのだが、グリップの内側を握りたいライダーの場合はクラッチレバーの位置を移動するのがオススメだ。
クラッチレバーホルダーを固定しているボルトを緩め、ハンドルの内側へ移動して自分が操作しやすい位置でクラッチレバーホルダーを再度固定すればいい。
繊細なスロットル操作をするために、目印をつけるべし!
滑りやすいオフロードの路面では、繊細にスロットルを操作することが重要になる。
オフロードの路面でタイヤが滑ってしまったり、スロットルをちゃんと明けられないのは、その操作に問題があるのだ。
「オンロードで走り慣れているライダーだと、スロットル操作の〝ざつ〟な人が思いのほか多いですね。
アスファルトの路面で走り慣れていることもあって、タイヤは常にグリップしているもの、と無意識のうちに思い込んでいるからでしょう。
そのようなライダーだとスロットルの開度を段階的に操作できていないので、まるで自転車の4段ギアのように〝オフ、小、中、大〟といったようにざっくりとしたスロットル開度で走っているんじゃないでしょうか。そんなアバウトなスロットル操作だから、滑る路面で絶妙にトラクションさせながら走るのが難しいのも無理はない……」。
じゃ、どうしたらいいのか?
「スロットルホルダーとスロットルに開度の目安となる目印をマスキングすればいいんです。
これはバイクに乗り慣れていない子どもにスロットル操作を教えるときにも使っています。
視覚的に〝今これぐらいスロットルを開けている〟というのが分かるので、より丁寧に操作する切っ掛けになります。
最初から細かく目印をつけても意識するのが難しいと思うので、まずはスロットルの全閉状態から全開状態までを5段階ぐらいに分けて目印をつけるのがいいと思います。
意識することで走りは変わっていくので、試してみてくださいね」
荒れた路面でエンスト……。防ぐためには?
クラッチのつなぎ方が適切でないと、エンジンの回転数が下がりすぎてエンストの原因となる。
エンストするシチュエーションと言えば、以下が主な要因として挙げられる。
これを防ぐためにはどうしたらいいのだろうか?
「エンストの原因は、スロットルの開度不足、適切なギアを選べていない、が上げられます。
舗装されたオンロードではそうそうエンストしないのに、オフロードではなぜエンストしやすいのか?
免許取得したばかりの頃を思い出してみるとなんとなく分かるのですが、発車するときに微妙に傾斜が着いた坂道だったり、1速のつもりが2速だったりといったことはありませんでしたか?
オフロードで走った経験が少ないと、〝オフロードは転倒するかもしれないから……〟〝慎重にアクセルを開けないとタイヤが空転して転ぶかも〟といった余計な不安が頭をよぎり、実は走りに集中できていなかったりします。オンロードで走行経験を積んでいるライダーでも、免許取り立てのビギナーの様な状態になってしまっているのでしょう。
また、オフロードの路面ははオンロードの路面と比べたら、何かしら傾斜のある路面がほとんどです。
いつもと同じエンジン回転数でクラッチをつないでも、エンジン出力が足りなかったりします。
エンジンの振動、音、クラッチレバーから伝わってくる感覚などを意識して読み取るようにして、クラッチを繋いでみてください。
走るのに適したギアが分からない場合は、一緒に走っている人に〝ここは何速で走っているの?〟と聞いてみるのもいいと思います。
オフロードでエンストをすれば、路面がデコボコしているだけにバランスを崩して立ちゴケのリスクは高まります。
アスファルトと違ってバイクに傷はつきにくいですが、倒れたバイクを起こす動作は体力を消耗します。
体力を消耗すれば集中力はそがれ、つまらないミスをしやすくなり、ますます体力を削がれます……。
楽しくオフロードを走るためにも、エンストのリスクは最小限に抑えましょう!」
まとめ
オフロードバイクは基本をしっかり押さえることで、初心者でも楽しく、安全に乗ることができる。たとえ40歳を過ぎてからでも、オフロードの楽しさを体感することは決して遅くない。マナブ先生が教えてくれた基本を実践し、オフロードバイクの新しい世界に飛び込んでみよう!
次回は『・滑りやすい路面とは?・シッティングとスタンディングの使い分けは?』を紹介する予定だ。乞うご期待。
ちなみに初回の『第1回:ライポジから押し引きまでを確認』はこちらでチェック!
テクニクスならオフロードバイクをレンタルして、ダートコース走行を体験できる!
欧州のサスペンションメーカーで理論を学んだ専門のスタッフが作業を行うテクニクスは、2001年に創業したサスペンションのプロショップだ。
テクニクスによって足回りのセッティングが施されたマシンは、ノーマルマシンとは別物の走りに生まれ変わる。テクニクスの豊富な知識と長年の経験から、バイクレースのトップライダーたちからも全幅の信頼が寄せられる心強い存在だ。
そのサスペンションのスペシャリストが、公道を走行するナンバー付きのバイクに最適なサスペンションを装着した〝レンタルバイク〟を使わない手はない!
オフロードを始めてみたい人はもちろん、足回りを自分に合わせたいユーザーにとってもプロショップが手がけたマシンを長時間乗られるから、非常に参考になること間違いない。
レンタルの詳細はこちらの記事とテクニクスのホームページをチェック!
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コースレイアウトは1周約700mとコンパクトなトラック。レイアウトはビギナーから中級向けだが、シンプルゆえに奥が深い!
マナブ先生曰く「シンプルな作りのコースだからこそ、速く確実に走るのは難しかったりします。なにも大きなジャンプがあって、高速コーナーがあってというようなレイアウトがすべてではないんです。オフロードは基本がすごく重要ですし、課題を一つ一つクリアしていくことが、上手くなる方法でもあります。そのためにも、シンプルなコースはオフロードを上達するためにも最適ですね!」
2024年エンデューロチャンピオンの渡辺学選手
全日本モトクロス選手権でヤマハのワークスライダーとして活躍した後、エンデューロレースに参戦。JNCCでチャンピオンになること7回!状況を常に冷静に判断してクレバーな走りで観客たちを楽しませてくれる。TWISTER Racingなるチームを率い全日本モトクロス選手権に参戦。若手選手の育成にも力を入れている。
エンデューロ会場で販売し、一口食べたらファンになる〝マナブギョーザ〟も必見。