国内二輪の新車ラインナップからキャブレターが姿を消して約20年。すっかり過去の技術となってしまったわけですが、そのわりには現代も好調なキャブレター車が世にあふれていると思いませんか?
バイクパーツでも生活用品でも文房具でも、シンプルなアナログ製品ってビックリするくらい長持ちするんです。しかも消耗品や補修材があればさらに長持ち。キャブレターの場合は、過去にモトメガネで何度か紹介しているキャブレターリペア&セッティングキット「キースター燃調キット」のおかげで好調を維持している車両も多いのです。
これまでモトメガネでは、キースター燃調キットの「リペア」の部分をメインに紹介してきましたが、今回は名古屋の旧車専門店「東海オート 中川店」協力のもと「セッティング」の部分について詳しく解説していきます。
東海オート 中川店
【住所】愛知県名古屋市中川区清船町5-1-3
【TEL】052-655-6141
【HP】https://s-vision-mc.co.jp/
1970年代 ~ 1980年代の人気車種を中心に取り扱う旧車バイク専門店。常に保有している在庫の台数はなんと500台以上!
県内外のお客を問わず、整備、カスタム、レストアから買取までを一任してくれる、旧車好きのための心強いお店です。

「純正セッティング=正解」とは限らない旧車の現実
冒頭で「キャブは長持ち」と話していたのに何でセッティングの解説? と疑問に思うかもしれません。とくにノーマルエンジンで吸排気をカスタムしていなければ、ジェットやニードルといったパーツは純正番手のジェットやニードルを組めばOK、つまりセッティングは不要だと思うのが普通です。
しかし、東海オート 中川店の野崎店長は、その考えに警鐘を鳴らします。

キャブボディ自体の摩耗具合やエンジンの圧縮状態によって、ベストなセッティングは変わります 。マニュアル通りの番手にしても調子が出ないことは多々あるんです


長年使われ続けたキャブレターは、スロットルバルブやボディ本体が目に見えないレベルで摩耗しています。またエンジンも摩耗によってわずかな圧縮抜けが生じるため、本来想定されているよりも燃料(空気)の吸い込みが不足したり過剰になったりする。つまり個体差によってベストな燃調セッティングは変わるということです 。

セッティングがズレたまま走り続けると、やがてエンジンの燃焼室にダメージが及びます。とくに注意したいのは薄すぎるセッティング。ピストンを焼き付かせてしまう危険があります。


キースター燃調キット
たとえばサービスマニュアルにキャブセッティングの数値が記されていても、車両の状態によってベストの値ではないケースもあります。
このようにマニュアルの数値から外れる個体の場合、キャブをセッティングして燃調を濃く/薄くする必要があります。しかしメインジェットは♯75のほか、♯78や、状況によっては♯82、♯72も用意しなければいけません。こんなときに役立つのがキースター燃調キットです。

キースターの燃調キットには、標準値を中心に上下数段階のメインジェットやスロージェット、さらにジェットニードルが同梱されています 。この「選択肢の多さ」によってベストセッティングを見つけやすくなるのです。
さらにOリングやガスケットといった消耗品も含まれていて、これらを交換することでキャブレターの修復ができるというスグレモノ。パーツ類はメーカー純正品を100%に近い形で再現。ほとんどの製品を自社工場で製造するメイドインジャパンの信頼性もあります。しかもお値段4,400円!(一部車種除く)
対応車種は今も増え続き、メジャーからマイナーなバイクまでその数はなんと500車種を超えています!
※対応する燃調キットが見つからない場合は、問い合わせフォームや電話で相談すると、可能な限り対応してくれるとのこと!
キャブレターセッティングの基礎知識

実はキャブレターセッティングは「どんな人が乗ってもコレが正解!」という、わかりやすい答えが存在しません。感覚による部分が多いため、AさんにとってはイマイチでもBさんにとっては最高となるケースもあります。
しかし基礎となる作業はどんな場合も変わりません。その基礎知識を野崎店長に聞いてみました。
本当にキャブレターが原因なのかチェックする
・エアクリーナーはキレイか
・プラグに正しく通電(点火)しているか
・エンジンの圧縮は適正か
・ガソリンは新しいか/入っているか
・排気の漏れ/二次エアの吸い込みはないか

いきなりキャブレターを疑うのではなく、まずは見落としがちな基本的な症状を確認しておくことが大切です。
キャブレターパーツの役割を知る

対して、エアスクリューは空気の量を決める調整ネジで強制開閉式(VM)キャブに搭載されています。
また、パイロットジェットとスロージェットはメーカーごとに呼び方が異なるだけで同じモノです。キースター燃調キットでは「パイロットジェット」表記を使用します

アクセル開度(全閉、1/4、1/2、3/4、全開)によって各パーツが担う領域が異なります。まずはこれを理解しましょう。
実走する
どのアクセル開度でエンジンがスムーズに回るのかをチェックします。
東海オート 中川店では実走セッティングで以下のことを心がけているとのこと。


プラグをチェックする
実走したあとはスパークプラグを取り外して焼け色をチェック。チェックする場所は以下の図でAとBです。
・A→アクセル開度:中~高
・B→アクセル開度:低~中

プラグの焼け色は少し走ったくらいでは変化が出にくいため、情報にまどわされないようプラグを見ないセッティング方法もあるようですが、東海オート 中川店では25㎞以上のテスト走行を必ず実施するため、しっかりと焼け色で判断ができるそうです。
キャブレターパーツを濃く/薄く調整する

◆エアスクリューorパイロットスクリュー(アイドリング~開度1/8)
アイドリングを下げて調整。エアスクリューなら右回しで濃く、左回しで薄くできます。
パイロットスクリューなら右回しで薄く、左回しで濃くできます。
ベストの位置になるとアイドリング回転数がもっとも高くなります。
スクリューを締めきった状態から1回転戻し~2回転が理想(車種による)。その範囲外でベストが出た場合はパイロットジェット(スロージェット)が濃すぎ/薄すぎるため、番手を調整します。
◆パイロットジェット(スロージェット)(アイドリング~開度1/2)
ジェットの番手を交換します。数字が大きいほど濃くなります。
◆ジェットニードル(開度1/4~1/2)
クリップの段数を変えます。クリップを上に移動すると薄く/下に移動すると濃くなります。
◆メインジェット(開度1/2~全開)
ジェットの番手を交換します。数字が大きいほど濃くなります。
セッティング時の注意点

注意点は2つ。1つは、薄すぎるセッティングを調子がいいと誤認してしまうこと。もう1つは薄いのか濃いのかわからず逆のセッティングをしてしまうことです。
「薄いセッティング」に潜む罠
「薄い方がエンジンの回転が軽く、速くなった気がする」。これもよくある勘違いの一つです。

ご自身でセッティングする方は薄くしがちなんです。その方がレスポンスが鋭く感じられて、調子よく思えてしまうからです。でも、プラグを見ると真っ白、なんてことがよくあります 。
燃料が薄すぎると、燃焼室の温度が過度に上昇し、最悪の場合はピストンが溶けたり焼き付いたりといった致命的なダメージをエンジンに与えます 。燃費を稼ぐために薄くするライダーも多いようですが、実はベストセッティングの方が燃焼効率がいいため燃費も上昇する傾向にあるとのことです。
「ゴボつき」? 「息つき」?
これは古くからある解説書やネット記事で使われる表現です。カンタンにいうと「ゴボつき=濃すぎ」「息つき→薄すぎ」です。
しかし、この2つは「アクセルを開けても失速する」という点においては同じですので、経験を積まないと違いを判断できません。そこで野崎店長にわかりやすく言語化してもらいました。
息つき →アクセルを開けると回転数が一瞬下がって加速しない。ガス欠に似た症状。
ゴボつき→アクセルを開けると回転数が波打つように上昇して加速しない。
ただし、この感覚がすべてではなく、症状は車両によって微妙に異なります。薄いと判断しても実は濃かったりとプロでも真逆のアプローチを強いられることがあるそうです。目安として参考にしてほしいとのこと。
セッティングが合えばいつまでも元気に走れる

キャブレターはパーツを新品にするだけでは本来の性能を発揮できません。しかしセッティングが合えば気持ちよく走れ、何年もコンディションを維持してくれます。そのためキースター燃調キットには複数のジェットやニードルが含まれていますし、旧車ショップのメカニックは試行錯誤を繰り返しているのです。
ですが、ここまで読んで「キャブレターって面倒だな」と思った読者もいるかもしれません。最後に野崎店長がキャブレターの魅力について話してくれました。
まとめ:キャブレターは生き物

キャブレターは古い機構ですが、バイクとしての楽しさが全然違います。最新のインジェクション車もいいですが、無難に乗れてしまう分、飽きを感じやすい気がします。
対してキャブレター車は手がかかりますが、季節ごとに調子が変わったり、妙によく走る“当たり”の日があったりと、感情をもった生き物のような感覚ですね。
完璧にセッティングが決まった瞬間の、あの吸い込まれるような加速感。それを一度知ってしまえば、キャブ車の沼からはもう抜け出せなくなるかもしれません笑。
取材協力:東海オート 中川店

名古屋で旧車・絶版車を中心に、幅広い車種の整備・カスタムを手がける名店。パーツ確保が難しい旧車や、情報が少ない海外モデルなど、他店で断られた車両の相談にも乗ってくれる駆け込み寺的存在です。


得意ジャンルはもちろん空冷ZやCB400FOUR、マッハ、GTといった70~80年代の人気名車たち。常に保有している在庫の台数は500台以上で、他のショップではお目にかかれないような希少モデルやフルオリジナル車両が数多く販売されています。

(編集協力:岸田精密工業株式会社)








