さまざまな排気量を展開している人気アドベンチャーモデル・Vストロームシリーズ。前半ではおもに足着き、取りまわしといった静的要素を中心にレビューした。後半の今回はエンジン特性の解説と、モトメガネ編集部3名が250/650/800をそれぞれ実走した市街地や高速域での走行性能、各モデルの得意シーンやおすすめユーザー像について詳しく解説するぞ。
三機種三様のエンジン特性
モデル | エンジン | 最高出力 (PS/rpm) | 最大トルク(kgf・m/rpm) |
---|---|---|---|
250 | 並列二気筒 | 24 / 8,000 | 2.2 / 6,500 |
650 | V型二気筒 | 69 / 8,800 | 6.2 / 6,300 |
800 | 並列二気筒 | 82 / 8,500 | 7.7 / 6,800 |
250と800が並列2気筒エンジンを、650がV型2気筒エンジンを採用。
それぞれに共通エンジンを持つモデルが存在するが、味付けが異なり、スペックもわずかに違っている(Vストローム250とGSX250Rのカタログスペックは同じ)。
排気量 | 共通モデル | 最高出力 (PS/rpm) | 最大トルク (kgf・m/rpm) |
---|---|---|---|
250 | Vストローム250 | 24 / 8,000 | 2.2 / 6,500 |
GSX250R | 24 / 8,000 | 2.2 / 6,500 | |
650 | Vストローム650 | 69 / 8,800 | 6.2 / 6,300 |
SV650 | 72 / 8,500 | 6.4 / 6,800 | |
800 | Vストローム800 | 82 / 8,500 | 7.7 / 6,800 |
GSX-8R/8S | 80 / 8,500 | 7.7 / 6,800 |
なお、パワーは排気量に比例しているように見えるが、リッター換算(1,000㏄に置き換えた場合のパワー)だと下記の数値になり、排気量あたりのパワーがもっとも出ているのは650という計算になる。
【パワーとトルク】
自転車でたとえると、「ペダルを回す速さ=パワー」「ペダルを踏みこむ強さ=トルク」と考えればいい。
もうひとつ付け加えるなら、パワー(最高出力)と最大トルクの発生回転数にも注目するといい。
2つの発生回転数が近いか離れているかで、以下のエンジン特性になる。
・回転数が近い→パワーとトルクが近い領域で発生するため、ピーク域での爆発的な加速が得やすい。
・回転数が離れている→低回転域で爆発によるトルクを稼ぎ、高回転域で回転馬力を生むという構成になり、街乗りから高速まで対応幅が広い。
今回は排気量が250~800㏄と大きく異なるため、上記の理屈だけで3車を同列に語れないが、近い排気量に乗った経験があるなら比較材料になるハズだ(例:YZF-R25とVストローム250の比較など)。
【エンジンの滑らかさと振動】
いわゆる「フィーリング」を決定づける要素が、エンジンの滑らかさ、振動(音)などである。
カタログスペックやエンジン設計からわかる要素を見てみよう。
【Vストローム250】
3車の中で唯一、ボアよりもストロークが長いロングストロークエンジン(ボアφ53.5mm×ストローク55.2mm)を採用。ピストンが長く上下するため、テコの原理でクランクを強く回せる。つまりトルクが大きくなる。ニュアンスは異なるが、先ほどの自転車の例で考えると、長いクランクのペダルをこいでいると思えばイメージしやすい。テコの原理が働くおかげで発進は得意だが、高回転域が苦手なエンジンだとわかる。短いクランク(ショートストロークエンジン)はその逆だ。
【Vストローム650】
3車の中で唯一のV型シリンダーを採用する。並列2気筒よりもエンジン幅をスリムに設計できるメリットがあるほか、走りにおいてはドコドコと間隔の空いた爆発が特長。これにより、タイヤのグリップをつかみやすく、ダートや悪路、ウェット路面での安定感につながる。原理としては、たとえばコーナー中にリヤタイヤがすべった場合、アクセルをオンオフする(トラクションをかけたり抜いたりする)とグリップが回復する。これと同じことがエンジンの爆発間隔によって起こっているのだ。
【Vストローム800】
270度クランクを採用することで、並列2気筒ながらVツインエンジンと同等の爆発間隔を実現。270度クランクとは、カンタンにいうと2つのシリンダーが爆発するタイミングをワザとずらして不等間隔にしているエンジンのこと。これにより、650(Vツインエンジン)と同じく悪路での安定性を追求している。ちなみに、等間隔爆発をねらった180度クランク採用車もある。こちらはなめらかで伸びのあるフィーリングが特長で、オンロードスポーツなどに用いられる。
実走インプレッション
ここからは編集部3名が実走したインプレッションを紹介する。
ステージは市街地と幹線道路。アクセル操作に対するエンジンの反応や、ギヤチェンジ、各部の操作感などを入念にチェックしてみた。
クラッチのミートポイント
3車ともミートポイントはわかりやすく扱いやすい。初心者にも問題なく扱えるだろう。ただ、250、650に比べて800はクラッチがやや重いという意見も。
アクセルを開けたときのエンジンの反応
【Vストローム250】
ビッグバイクとの比較になるため、非力さは否めないところ。アクセルに対する反応は穏やかで、低回転域ではややパワー不足を感じた。回転数を上げればレスポンスは悪くないが、ほか2車と比べると反応が控えめで、意図的にアクセルを多めに開ける必要があった。
【Vストローム650】
アクセルを回した分だけしっかり加速し、Vツイン特有の鼓動感が楽しめる。中低速域で太いトルクを感じ、エンジンブレーキが強めだが適切なギアを選んで走る楽しさがある。マイルドでコントロールしやすい特性。
【Vストローム800】
3台のなかでレスポンスが非常に鋭く、もっともパワフル。低回転から強いトルクが感じられ、急なアクセル操作ではフロントが浮くほどの力強さがある。アドベンチャーモデル特有の上体が起きたポジションのため、フル加速時は身体が置いていかれる感覚が強い。
ギヤ操作のフィーリング
3車ともにスムーズでギヤの入りは良好。扱いやすいフィーリングで初心者でも安心して操作ができる。Vストローム800はスムーズで応答性の高いシフトフィールを持ち、スポーツ色の強いアドベンチャーバイクらしい操作感だ。
ステージ別インプレッション
ここからは、ステージに合わせたエンジン回転域の扱いやすさとトルクの出方、サスペンションの動き、ポジション、ブレーキのコントロール性などに着目して走行インプレッションを行った。
市街地
【Vストローム250】
ほか2車と比べるとトルクは控えめだが、低回転域でのギクシャク感がなく、軽量な車体のおかげで発進がスムーズ。クルマの流れをリードできる。サスペンションは適度な硬さで、自然なポジションで足つきもいいので街中のストップ&ゴーでストレスを感じない。ブレーキのコントロール性がよく、せまい道でも扱いやすい。
【Vストローム650】
低回転域で太いトルクがあり、力強い発進が可能。サスペンションはしっかり動き、安定感にすぐれる。ポジションは視界が高く、クラッチがやや重い点を除けばストップ&ゴーも快適。車格が大きいため、せまい路地ではやや注意が必要だが全体的に扱いやすい。3車のなかでベストバランスという意見も。
【Vストローム800】
トルクフルな特性で、超低速域をクラッチ操作だけで走行可能。アクセルレスポンスが鋭く、適切なモード選択するなどの制御が必要だが、慣れれば安定した走行が楽しめる。サスペンションは快適で、視界の高さとラクなポジションが渋滞時のストレスを軽減。ハンドル幅が広いため、狭い道ではやや気を使う一面も。
幹線道路
【Vストローム250】
中回転域でのトルクは控えめで、加速に時間がかかるため流れの速い幹線道路ではややパワー不足を感じる。ただ、一度スピードに乗れば安定して走行可能で、横風にあおられる恐怖などを感じにくい。サスペンションは適度に動き、コーナリングも安定している。市街地とは違い、クルマの流れをリードすることが難しいという意見もあった。
【Vストローム650】
中回転域で豊かなトルクを発揮し、安定した加速が可能。800ほどの瞬発力はないが、ライダーが怖さを感じることなく楽しめる絶妙なラインだ。Vツインの鼓動感が心地よく、コントロールしやすい出力特性が特徴。サスペンションは、またがったときに感じた硬さがなく、走行中のギャップをなめらかにいなしてくれる。
【Vストローム800】
スペック的に当然だが、もっともパワーを感じるフィーリング。中回転域でのトルクが豊富で、力強い加速とスムーズなエンジン特性が特徴だ。270度クランクの鼓動感が楽しく、コントロールしやすい出力でクルマの流れに余裕で対応可能できる。アドベンチャーの形をしたバイクではあるが、リッターロードスポーツのような走りができる。コーナーにおけるサスペンションの動きは、ほかの2車よりワンランク上の印象。
快適な走りをサポートする装備品
最後は、各モデルが搭載する装備品について解説。
Vストローム250
Vストローム650
Vストローム800
3台の中で選ぶならどれ? どんなライダーにオススメ?
Vストローム250
ビッグバイクやトレールの経験がなく、初めてアドベンチャーモデルに乗りたい人なら250。足つきや取りまわしがよく、ツーリングはもちろん通勤や街乗りにも気軽に使える。長距離移動の快適さにおいては250㏄でトップクラスだろう。ただし、本格的なオフロード走行を想定したモデルではないため「荒れた路面に強いオンロードアドベンチャー」という立ち位置。
また、パワーを求めるライダーは24PSという数値が気になるかもしれない。その場合はビッグオフも視野に入れよう。
Vストローム650
重さや足つき面においてビッグバイクに対する慣れが求められるが、シリーズ最高バランスとの呼び声が高い名車。今回インプレッションしたモデルはオンロード向けの「Vストローム650」だが、オフロードを走りたい人は「Vストローム650XT」を選ぶといい。ただ、残念ながら生産終了がアナウンスされており、新車を手に入れるチャンスはあとわずか。欲しい人は急ごう!
Vストローム800
最新技術と力強いエンジンを搭載し、中・上級者のツーリング志向に応える一台。街中から長距離まで幅広く使える一方、650よりも刺激的な乗り味が特長で、ビッグバイクにある程度慣れたライダー向け。ただ、意外にも足つきや取りまわしは650と大きな差がないので、単純にパワーや装備、価格だけに注目する選択もアリだ。