私はこれまで「とある二輪指導員」と名乗ってきましたが、二輪教習だけでなく、四輪の教習や高齢運転者講習も担当しています。最近、教習や講習の現場でよく耳にするのが「昔はもっと余裕があったんだけどな」という言葉です。
近年のバイクブームを支えているのは、いわゆるシニアライダーの存在です。そこで今回は、「加齢」や「視力」などの認知能力の変化が、ライダーにどのような影響を与えるのかについて考えてみたいと思います。
年齢と共に衰える視力
信号待ちでナビを確認しようとして、思わず顔を近づけてしまう。デジタルメーターの表示を、以前よりじっと見てしまう。そんな経験はないでしょうか。重々承知の事ではありますが、どれほど身体能力に自信があっても、加齢に逆らうことは簡単ではありません。
知識や経験が豊富でも、身体機能が低下すれば、理想どおりのパフォーマンスを発揮することは難しくなります。どれだけ鍛えていても、時間だけは平等に流れていく。まさに「盛者必衰」といえるでしょう。

①「静止視力」は40代から低下傾向

厄年を迎えた私自身も、視力の衰えを感じることがあります。最近、小さな文字を読もうとするとピントが合わない、いわゆる「老眼」です。40歳で老眼は早いと言われることもありますが、これも加齢による自然な変化です。

最近のバイクはディスプレイ化が進み、情報量も増えました。さらにバイクのハンドルにスマートフォンを取り付けて、さまざまな機能を活用しています。便利になった反面、「小さな文字を見る瞬間」は確実に増えています。
静止視力が低下すると、それらを確認するために視線移動の回数や時間が増える可能性があります。視線を落とす時間が長くなれば、それは結果的に“脇見”になります。ほんのわずかな視線の移動でも運転中の事故のリスクは高まるので、十分注意が必要です。
②「動体視力」は50代から急激に低下
静止した文字が見えにくくなるだけでなく、「動くものを正確にとらえる力」にも変化が表れます。交差点で右折車の動きを見誤る。前車の減速に一瞬反応が遅れる。その「一瞬」が事故につながります。
運転中、「危ない」と感じてからブレーキをかけるまでの反応時間は約1秒といわれています。これは体調が万全な場合の話であり、疲労や加齢によって反応は遅くなります。運転は「認知・判断・操作」の繰り返しです。この流れを正確かつ素早く行うためには、動体視力が重要な役割を果たします。

しかし、動体視力は50代を境に大きく低下するといわれており、実際にリターンライダーからは「目線が追いつかない」「反応が遅れたと感じる」といった声を聞くことがあります。
視力が衰え始める年齢や、その症状を自覚する事はシニア世代にとって重要です。
③「夜間視力」の低下は事故リスクを高める
夕暮れ時の空気は気持ちがいいものです。しかしその時間帯こそ、視覚機能にとっては最も厳しい時間でもあります。

明度の差と視認性
「明度の差」とは、明るさと暗さを見分ける力のことです。
昼間は物の輪郭がはっきり見えますが、夜間は注意して見なければ対象を認識できないことがあります。つまり、そこに存在する「何か」に気づけないということですが、運転中に立ち止まって確認することはできません。

この明度識別能力の低下については、運転中の意思決定に時間がかかるといった方がいいかもしれません。もちろん自分以外のライダー・ドライバーも同様です。自分が見えにくいだけでなく、他車からも見落とされやすくなり、いわゆる「もらい事故」のリスクも高まります。
できるだけ明るい時間帯に走行を終える計画を立てることも、事故のリスクを低くできる有効な対策といえるでしょう。

順応と「げん惑」
日没が早くなる季節は、夕暮れから夜間にかけて重大事故が増える傾向があります。

夕暮れから夜間の運転では、「明度の差」だけではなく、対向車のヘッドライトや街灯、ネオンなどの強い光によって「げん惑(強い光を直接見て一時的に目がくらむ現象)」が起こります。実際に私自身、対向車のLEDライトで一瞬見えなくなり、ヒヤリとした経験があります。
とくに近年は高輝度なLEDライトの普及により、その影響がさらに強まっています。

ライダーはバランスを取りながら走行しています。もしも運転中に視界が奪われると平衡感覚を保ちにくくなり、バランスを崩して転倒の危険性が高まります。
したがって、「げん惑」を起こしそうな強い光を直視しないよう、視線を少し外すなどの工夫を意識的に行うことが大切です。
身体能力の変化と向き合う
身体能力の変化は本人が気づかないうちに進んでおり、自覚症状が無いことがあります。60代、70代のライダーが珍しくない時代だからこそ、「年齢に合った走り方」を改めて考えるタイミングと言えるでしょう。年齢に合った走り方とは、無理をしないことではなく、“余裕を持つ走り”を選ぶことです。

まとめ
各地でバイクが関わる痛ましい事故が発生しています。残念ながら、身体は若い頃のようには動きません。
特に視覚機能、とりわけ動体視力の低下は、バイクの運転に大きく影響します。
・速度を控えめにする
・夜間走行をできるだけ避ける
・無理な追い越しをしない
・こまめに目を休ませる
こうした小さな積み重ねと、運転マナーが大きな事故防止につながります。
若い頃のような反射神経はないかもしれません。しかし、その代わりに手に入れたものもあるはずです。経験、余裕、そして自分を知ること。年齢に合わせて走り方を変えることは、衰えではなく進化です。
それもまた、大人のライディングではないでしょうか。








