ヨシムラといえば、まず思い浮かぶのは「サイクロン」、つまり集合マフラーだ。しかし、スズキのロングセラー・ハヤブサ用には、もうひとつの隠れた人気製品が存在する。それが、左右それぞれにマフラーを備えた「ツインエキゾースト」タイプだ。
ヨシムラの中でも珍しいこの構成は、ハヤブサとの組み合わせで高い人気を誇っている。ハヤブサ用にツインエキゾーストを採用している理由、特性、さらには実際にインプレした感想を紹介していこう。
文/中村 浩史 写真/森 浩輔、株式会社ヨシムラジャパン

世界初のバイク用集合マフラー誕生

1954年、「吉村モータース」として九州に開業したヨシムラの創業者・吉村秀雄は、当初は町のバイク屋として車両のチューニングを手がけていた。九州でレース活動をしていたヨシムラの元には才能をもったライダーたちも集まり、存在感を増していった。ホンダもヨシムラの技術力の高さに早くから注目しており、チューニングを依頼していたほど。その名が全国に広く知られるきっかけとなったのが、1964年の鈴鹿18時間耐久レースだった。ヨシムラの手がけたフルチューンマシンが見事に優勝を飾り、その卓越した技術力が一躍注目を集めたのである。
1968年、ホンダが並列4気筒を搭載したCB750FOURを発表したことを契機に、ヨシムラはこの“ナナハン”の可能性に着目。従来の独立管のマフラーではなく、4本の排気を1本にまとめる集合マフラーの開発に挑んだ。手曲げで管径や長さ、集合位置を最適化し、軽量化と排気効率の両立を目指した。1971年、米国AMAスーパーバイク選手権の最終戦でヨシムラ集合管を装着したCB750FOURが実戦デビュー。強烈なサウンドと高性能で注目を集めた。

当時は解析技術が未発達で、ライダーのフィーリングで評価されていたが、後に排気が渦を巻きながら干渉し合うことで効率が高まることが実証され、集合管の優位性が裏付けられた。この革新は、マルチ気筒車に集合マフラーを装着する流れを生み、現在では市販車でも標準装備となっている。
ハヤブサ×ヨシムラの黄金コンビ

今回試乗したのは、スズキのメガスポーツ・ハヤブサ。1999年のセンセーショナルなデビューから25年経ったが、2022年登場の現行モデル「ジェネレーション3(Gen3)」も高い人気を誇っている。
もちろん、ハヤブサのマフラーといえば「ヨシムラ」とセットで考えるファンも多い。
そのGen3ハヤブサ用にヨシムラが発売しているのは2本出しサイクロンのみ。集合マフラーの雄・ヨシムラが考える2本出しとは、いったいどんなものなのだろうか。


2本出しのメリットとは?

「2本出しの大きなメリットは、やはり音量を抑えやすいということです」と話すのは、マフラー開発課の渡邊智宏さん。

マフラーの音量はサイレンサー容量に大きく依存するため、集合マフラーより2本出しのほうが有利なのだという。
「集合マフラーで音量を抑え込むと、どうしても出力とのバランスが崩れてしまう。音を抑えたいあまり、パワーも抑え込んでしまうことになる。ヨシムラとしてはパワーを追い求めたい。その理由での2本出しです。Gen2のハヤブサで集合タイプも販売しましたが、音量を抑えるとノーマルの最高出力を超えるのがすごく大変だったんです」(渡邊さん)

ノーマル比で−12kg! 驚異の軽量化と扱いやすさ

実際に走り始めてまず感じるのは、停車時からの引き起こしでノーマルから大きく変わった軽さだ。
ノーマルマフラーが約20kgに対し、ヨシムラサイクロンは8.2kg(取材装着マフラー:TTBC チタンブルーカバー/カーボンエンド)。約12kgの軽量化は、走行中はもちろん、駐輪や取り回し、ガレージへの出し入れでもはっきりと体感できる。装備重量264kgのハヤブサにとって、この軽さはツーリング時の大きなアドバンテージだ。
低回転域は静か、でもアクセルを開ければ一変!

エンジンをかけた瞬間、ノーマルより静かなことに驚く。
一般道を50〜60km/hで走る2000〜3000rpm域では、低音が響くノーマルよりも明らかに静粛。だが高速道路でアクセルを開けると、その印象が一変する。一定回転では静かだが、スロットルを開けた瞬間のサウンドは“まさにヨシムラ”だ。
「開け始め、加速時のサウンドにはこだわっています。低回転では静粛性を意識していますが、“マフラーを替えたな”と感じてもらうのはサウンドです。一定回転と加速時に二面性がある、そんなマフラーです」(渡邊さん)
伸びやかな高回転パワー

マフラー交換のもうひとつのメリットは、パワー特性。
低回転ではノーマル同等の厚いトルクを感じつつ、3000〜4000rpmを超えるあたりから軽く吹け上がる。そのまま高回転まで伸びていくフィーリングは爽快そのものだ。
ローやセカンドで引っ張ると、クォオオオンと鳴くサウンドとともに、ハヤブサの巨体が軽々と加速していく。まさに「ヨシムラ×ハヤブサ」らしい走りを体感できる瞬間だ。
進化を続ける開発体制

「ハヤブサのマフラーは、このひとつ前のGen2でゼロから開発し、レイアウト・構造・管長・径選定まで作り込んだ経験があります。その性能をベースに仕上がったのが今回のモデル。これで4タイプ目ですが、新しくするごとにパワーも完成度も上がっています」
(渡邊さん)
このモデルからは、レーシングマシン同様に車両全体をフルスキャンしてからCAD設計する手法を採用。
これにより、車体とマフラーのクリアランスを最適化し、フルカウル内に美しく収まるレイアウトを実現。今後の新モデル開発にも効率的に生かせるという。
改良されたサイレンサー構造

マフラー開発課の関谷勇希さんもこう語る。
「Gen2までのハヤブサ用マフラーは、そのパワーのせいかグラスウール飛散が見られました。ユーザーの皆さんには車検ごとの点検をお願いしていましたが、Gen3用ではサイレンサー構造を改良し、グラスウールの耐久性を大幅に高めています」

製品詳細:フルエキゾーストHEPTA FORCE チタンサイクロン 2本出し 政府認証

| 車両型式 | 8BL-EJ11A |
| エンジン型式 | DXA1 |
| 自動車排出ガス試験結果証明書 (ガスレポ) | 有り |
| パイプ材質 | チタン |
| 近接排気騒音 | 93dB/4,850rpm |
| 加速走行騒音 | 80dB |
| 重量 | 8.2〜8.8kg |
| 価格 | ¥323,000 (税込¥355,300)~ |
■政府認証マフラー
■排出ガス規制適合品 騒音規制適合品
■車検対応
■製品2年保証
ヨシムラが追求する「スゴいハヤブサ」

ヨシムラの目指すものは、ノーマルよりも「スゴいハヤブサ」。
それはパワーだけでなく、軽さ・サウンド・静粛性・耐久性といったトータルバランスだ。
住宅地や市街地を静かに走るジェントルさと、高速道路での圧倒的パフォーマンスを両立。
ヨシムラサイクロンには、そんな現代の“スゴさ”が詰まっている。
(編集協力:株式会社ヨシムラジャパン)








