さまざまな排気量を展開しているヤマハの人気ロードスポーツネイキッド・MTシリーズ。前半ではおもに足着き、取りまわしといった静的要素を中心にレビューした。後半の今回はエンジン特性の解説と、市街地や幹線道路、高速道路での走行性能、各モデルの得意シーンやおすすめユーザー像について詳しく解説するぞ。

三機種三様のエンジン特性
| モデル | エンジン | 最高出力 (PS/rpm) | 最大トルク(kgf・m/rpm) |
|---|---|---|---|
| MT-25 | 直列2気筒 249㏄ | 35 / 12,000 | 2.3 / 10,000 |
| MT-07 | 直列2気筒 688㏄ | 73 / 8,750 | 6.9 / 6,500 |
| MT-09 | 直列3気筒 888㏄ | 120 / 10,000 | 9.5 / 7,000 |



MT-25とMT-07が2気筒エンジン、MT-09が3気筒エンジンを採用する。最大出力/トルクのカタログ値だけを見るとMT-25とMT-09が高回転型、MT-07が低中回転型エンジンだと分かるが、ヤマハのねらいはそれだけではない。
◆MT-25→180度クランク+2気筒
◆MT-07→270度クランク+2気筒
◆MT-09→クロスプレーン3気筒
【MT-25:180度クランクとは?】
並列2気筒エンジンでよく使われる基本形。2つのピストンが「交互に上下する=180度ズレて上下」する180度クランクを採用。4ストロークエンジンの特性上、爆発タイミングは180度と540度の不等間隔となり、独特のリズムを持つ。振動は比較的少なく、高回転域でのスムーズな吹け上がりが特長。
【MT-07:270度クランクとは?】
2つのピストンの回転角度を270度ズラして上下する270度クランクを採用。結果、爆発タイミングが不等間隔(爆発間隔は270度と450度)になり、Vツインのような鼓動感とトラクションが得られる。
【MT-09:クロスプレーン・コンセプトとは?】
MT-09はクロスプレーン・コンセプトに基づく3気筒エンジンを搭載。クランクピンを120度ずつ配置することで爆発間隔を0度→240度→480度にしている。リニアなトルク感が特長。
…と専門的な話題が続くが、重要なことは、それらの機構が乗り味にどう影響するのか? ということだろう。その解説もあわせて後述のインプレッションを参照してほしい。
【パワーとトルク】
自転車でたとえると、「ペダルを回す速さ=パワー」「ペダルを踏みこむ強さ=トルク」と考えればわかりやすい。このイメージをもって各エンジンの特性を知れば、理解がより深まるハズだ。
【MT-25】

フルカウルスポーツ・YZF-R25と同系統のエンジン。ショートストローク設計により、高回転域での伸びやかな加速が特徴。トルクで押し出すというよりは、回転数を稼いで速度を乗せていくタイプ。180度クランクにより振動が少なく、フィーリングは直列4気筒エンジンに近い。クセがなく、街乗りから峠まで軽快に走れる、初心者にも扱いやすいエンジンだ。
【MT-07】

270度クランク+不等間隔爆発の特長のひとつに「トラクション感」がある。これは、爆発間隔が不均等であることで駆動力の伝わり方に間欠性(アクセルをオンオフしたような特性)が生まれ、タイヤのトラクションを維持したり、グリップを回復させたりする効果のことだ。
【MT-09】

クロスプレーン・コンセプトに基づく3気筒設計を採用。クランクピンを120度ずつ配置することで爆発間隔は0度→240度→480度となり、トラクション性能にすぐれ、鼓動感をともなった力強い加速が得られる。MT-07と同じくスロットル操作に対する俊敏な反応を実現。MT-07が低中回転域でのトルク特性を重視しているのに対し、MT-09は高回転域での高出力化を志向した設計となっている。
実走インプレッション

ここからは編集部3名が実走したインプレッションを紹介する。
ステージは市街地と幹線道路、高速道路。アクセル操作に対するエンジンの反応や、ギヤチェンジ、各部の操作感などを入念にチェックしてみた。
クラッチのミートポイント

【MT-25】
アシスト&スリッパー®クラッチを採用しているため(以下:A&Sクラッチ)レバー操作はかなり軽い。また、レバーを変更したことで20年モデルより-11%の軽さを実現。そのため、ミートポイントが探りやすく、初心者でも安心できる。
【MT‐07】
MT-25と同様、A&Sクラッチを採用し、レバーの操作荷重は21年モデル比で-22%を実現している。やや重さを感じる意見もあったが気にならないレベルで、ミートポイントもわかりやすい。
【MT-09】
同じくA&Sクラッチを採用しているためレバー操作は軽いがつながりがシビア。エンジンのトルクが太いため、半クラの幅が短く、慣れが必要な場面も。しかしビッグバイクながらクセはなく、同クラスの他モデルと比べると操作しやすい印象だ。
アクセルを開けたときのエンジンの反応

【MT-25】
2気筒らしい鼓動感を持ちつつ、高回転までスムーズに回るエンジンは、穏やかなレスポンスでストレスなく加速できる。一瞬で車速が伸びるというより、徐々に速度が乗るタイプで、操作に余裕を持てるやさしさがある。250ccスポーツモデルとしては平均的な性能で、ドッカン加速にならず安心して乗れる扱いやすさが魅力。
【MT-07】
アクセルを開けると瞬時に反応し、低中速トルクの厚さで地面を蹴るように加速する。レスポンスが非常によく、ラフに開けると急加速で身体が置いて行かれるほど。鋭さの中に扱いやすさが共存しており、少々気を使うが走りは楽しい。
【MT-09】
3気筒らしくなめらかで力強く、シャープなレスポンスで加速する。2気筒の鼓動感と4気筒のなめらかさを併せ持ち、アクセルレスポンスは非常によく、ドッカン加速ではなく粘り強く伸びる加速感が特徴。振動が少なく、120psのパワーでも恐怖感は少ない。ただ、好レスポンスゆえに街乗りでは少しラフに感じる場面も。
ギヤ操作のフィーリング

【MT-25】
軽くカチッとギヤが入るクセのない素直さを感じる。フィーリングが自然すぎて「とくに意識することがない」という意見もあり、可もなく不可もなくといったところだ。
【MT-07】
ストロークはしっかりしており、やや重さを感じるもののギヤの入りは良好。
【MT-09】
走行モード問わず、スポーティな感触で入りがいい。3車種の中でステップ位置が後ろ気味で、シフトダウンの際にしっかり踏み込む意識が必要という意見もあったが、気になるのは最初だけで慣れで解決できるレベルだ。
ステージ別インプレッション

ここからは、ステージに合わせたエンジン回転域の扱いやすさとトルクの出方、サスペンションの動き、ポジション、ブレーキのコントロール性などに着目して走行インプレッションを行った。
市街地
【MT-25】
低速でも安定して走れるため、街乗りや渋滞時の操作はラクで、発進も軽快。しかし小排気量ゆえに低回転トルクが薄く、クラッチ操作をていねいに行う必要がある。とはいえ、市街地では軽い車体と良好な足つき性による安心感が絶大で、ビギナーやリターンライダーでも不安なく乗れる完成度だ。
【MT-07】
豊かなトルクで信号発進はスムーズ。しかし低いスピードを維持する走りはやや苦手で、ギヤ選択に注意が必要だ。また、エンジン回転域に応じたギヤ選択が求められるためクラッチ/シフト操作が増える。これを楽しいと感じるか、わずらわしいと感じるかで印象が変わる。渋滞時は疲れやすい印象。サスペンションは適度な固さで乗り心地は良好。
【MT-09】
低速でも安定していて扱いやすく、サスペンションやシートの快適性もあって渋滞でも大きなストレスは感じにくい。トルクが強く、回転数が足りない場面でもアクセルを開ければ加速するため低速コントロールはラク。ただし、開け方によってはギクシャクする場面もあり注意が必要。サスはスポーツ寄りで適度に固め。ブレーキは街中だと効きすぎるほど良好。
幹線道路
【MT-25】
60〜80km/h巡航は問題なく、パワー不足も過剰感もない絶妙なバランスで走れる。加速にピーキーさはなく終始穏やかで安心感があり、中速域でも扱いやすいため疲れにくい。ポジション、加速、鼓動感の全てが高水準。体重65㎏のライダーでサスペンションはやや柔らかめに感じられたが、快適性に寄与している。
【MT-07】
中回転域は振動が路面を蹴る感覚で力強く、追い越しも余裕だ。エンジンブレーキは強めで、サスペンションの硬さとあいまって機敏なコーナリングが可能。加減速やサスの動きなど全体的に極端な印象で旋回性はクイック。コーナリングは3台の中で1番という意見もあった。加速・旋回の鋭さを重視するならMT-07がオススメ。
【MT-09】
どの速度域でも加減速がなめらかで、ラフな操作も吸収してくれる懐の深さが魅力。しかし、悪く言えばメリハリがないという意見もあった。もちろん加速は3台中最高で、圧倒的な余裕がある。MT‐07が鼓動感重視なら、MT‐09はなめらかさ重視で伸びのあるフィーリングといったところ。サスペンションは柔らかさの中に芯があって乗り心地が良く、ギャップ通過時でも粘る足まわりだ。
高速道路
【MT-25】
高回転を使うため100km/h巡航で余裕はないが、自分のペースで走るなら問題なし。マスツーリングで大排気量車とも一緒に走れるだろう。ただしハイペースなバイクに付いていくにはやや心もとない。
【MT-07】
120km/h前後まで余裕があり、直進安定性が高いためクルージングがラク。積極的な操作が求められるカチッとしたバイクで、乗り手の入力で上手く走らせる楽しさがある。操作感を楽しむならMT-07がオススメ。ただ、振動が大きいため、ライダーによっては長時間の走行が厳しいと感じるかもしれない。
【MT-09】
加速・ブレーキ・サスすべてハイレベルで、高速域でも圧倒的な余裕がある。有り余るパワーだがオールマイティに使えるバランスを持ち合わせているため、大型にステップアップする人は、MT-07よりMT-09の方がベストチョイスという見方もできる。巡航スピードに対して、風の影響をダイレクトに受けるため高速道路は得意と言えないが、それはネイキッドゆえの宿命として受け入れるべき。
快適な走りをサポートする装備品
最後は、各モデルが搭載する装備品について解説。
MT-25






MT-07





MT-09






3台の中で選ぶならどれ? どんなライダーにオススメ?

MT-25:軽快で安心感のあるエントリーモデル

軽量で足つきがよく、初心者やリターンライダーでも安心して乗れる。2025年モデルではスリッパークラッチやスマホ連携、USB端子など装備が充実し、扱いやすさがさらに向上。エンジンは高回転までスムーズに回り、穏やかな加速でストレスなく走れる。低速域でも安定しており、車体の軽さが安心感につながるため街乗りやツーリング入門にぴったり。価格も60万円台に抑えられており、コストパフォーマンスの高い1台だ。
MT-07:鼓動感と俊敏さが魅力の万能ミドル

2気筒らしい鼓動感とトルクの厚みが魅力で、街乗りからワインディングまで幅広く対応。アクセルレスポンスが鋭く操作に少し気をつかうが、走りの楽しさは抜群。2025年モデルでは電子制御スロットルやライディングモード、倒立フォークなど装備が強化され、スポーツ性能が向上しているため、コーナリングを含む操作感を楽しみたいライダーにオススメ。バイクらしい振動や加速感を求める人にも最適で、走りにこだわりたい人はコレ。
MT-09:なめらかで力強い加速、電子制御満載の上級モデル

3気筒エンジンによるなめらかで力強い加速が特徴。ラフな操作も吸収してくれる懐の深さがあるため、ハイパワーだが大型デビューの1台としても優秀。2025年モデルでは6軸IMUによる高度な電子制御やライディングモード、スマホ連携など装備が充実し、快適性と安全性が大幅に向上。振動が少なく、扱いやすいエンジンとあいまって長距離ツーリングにも適している。バイクらしい鼓動感よりも滑らかさや余裕を重視するライダーにオススメだ。









