比類なき高性能を備えたパワーユニットを、流麗なフォルムのエアロボディに秘めたスズキのフラッグシップモデル・Hayabusa。最高速やハイパフォーマンスの話題が先行しがちだが、実はライダーのデリケートな操作に対してもフレキシブルに反応し、ストリート走行から旅まで自在にこなすことができる実力も持っている。
IMPRESSION:横田和彦/PHOTO:関野 温
孤高のアルティメット・スポーツモデル、Hayabusa
1999年に登場したHayabusaは、鎧兜をモチーフにしたという塊感あるカウルデザインや、高剛性を誇るアルミフレームに搭載された1298ccエンジンのハイスペックで我々を驚かせた。
だがそれ以上に驚いたのが、乗ったときのフィーリングだ。迫力に満ち溢れたルックスから受ける印象とは裏腹に、十分コントロールできそうだと感じられるポジションをはじめ、アクセルをほんの少しだけ開けるだけで図太いトルクが湧き上がり、重量級の車体をウルトラスムーズに押し出す直列4気筒エンジンや、絶大なる安心感に満ちた直進安定性、峠道も自然にこなすハンドリングなど、すべてが今までに感じたことのないもの。そのまとまりの高さはまさに驚愕だった。
デビューから四半世紀の間に2度モデルチェンジをして現在は3代目。「公道における、究極のスポーツバイク」という基本コンセプトをキープしたままブラッシュアップを重ねてきた。
ひと目でHayabusaだとわかるエアロフォルムはさらに磨き上げられ、質感も向上。もはや走るアートの域に到達したといっても過言ではあるまい。
フラッグシップの実力を再確認するためワンデイトリップへ
Hayabusaがデビューしてから26年が経過した。その間に多くのライバルが生まれては消えていったが、Hayabusaだけは変わらず存在し続けてきた。
あらためて最新モデルを見ると、とんでもなく存在感がある。とにかくボリューミーなのだが、ライダーがまたがる部分はきれいに削ぎ落とされているので、まるでひとつのパーツになったかのように収まる。この一体感がイイんだよね。
アイドリングでは重量車らしい低く図太い連続を奏でる直列4気筒エンジンは、アクセル操作に対してリニアに反応。Hayabusaにはスズキインテリジェントライドシステム(S.I.R.S.)という多機能の電子制御システムが搭載されていて、それぞれの機能を細かくセッティングすることができるのだが、その内の1つであるSDMS-α(スズキドライブモードセレクターアルファ)にプリセットされているA/B/Cという3モードのまとまりがかなり良い。そのため、それを切り替えるだけでシチュエーションにあわせた走りが可能となる。
Aが一番アクセル操作に対するレスポンスが良く、シャープに吹け上がっていくアクティブな特性。Bが少し落ち着いたフィーリングでアクセルの開閉操作に対して忠実に反応する感覚。混み合った市街地などでも扱いやすいイメージだ。Cはさらにマイルドな特性。雨の日などアクセル操作に気を使わなければならないシーンで役立つ。
今回はコンディションが良かったこともあり、ほとんどの行程をAモードで走った。一番アクティブな特性なのだが、アクセルとエンジンの連携がさらに繊細になっていることもあって、パワーを思い通りにコントロールできるので市街地でも不自由は感じなかった。
こういうところからもHayabusaが時間をかけて進化してきたことが感じ取れる。
大柄な車体を操ることで得られる充実感
Hayabusaをスタートさせると、一番近くのランプから高速道路へと駆け上がっていく。タンデムシート下にETC2.0車載器を標準装備しているので、料金所では停まることなくスルー。ストレスなく本線に合流できる。
高速道路はHayabusaが得意としているステージ。ここでの安定感はバイクの中でもトップレベルだ。剛性感が高い車体は走行ラインをビシッとトレースし、サスペンションはよく機能してライダーに余計な振動を伝えない。空力特性にも優れているので、走行風もさほど気にならない。
このとき意外なところでカウルワークの効果を実感した。それはハンドルを握っている手の部分だ。この日は気温が低かったのだが、手が思いのほか寒くならなかったのだ。
正直に言うと、走り出す前には「オプションのグリップヒーターがついていれば…」と思ったのだが、実際には手に寒風があまりあたらなかったので、そこまで冷たくならなかった。空力性能の徹底した追求ぶりをここでも感じた。
このステージで役立つ機能がクルーズコントロールシステムだ。設定した速度で走り続けることができるのだが、ロングツーリングで疲労を軽減させるのに大いに役立つ。一度使ったら手放せなくなる便利なシステムだ。
ワインディングで見せる軽快なフットワークに感嘆!
高速道路を降りてワインディングに向かう。すると、ここでHayabusaはクルージングのときとは違う表情を見せる。押し歩きをしたときに感じた重量級の車体とは思えないフットワークを発揮するのだ。もちろん軽量なスーパースポーツモデルのようにスパッと鋭くバンクして駆け抜けていく感覚とは異なるのだが、ライダーの体重移動に素直に反応し、太いタイヤのRをなぞるかのようにグリンッとバンクしていくのだ。路面の影響を受けにくく、バンク中の姿勢も安定したもの。コーナーの出口ではアクセルをわずかに開けただけでリヤタイヤが路面をなめらかに、かつ力強く押し出す。そのときの加速力はさすがのもの。コーナーで頑張らなくても、立ち上がり加速だけで余裕を持って先行車に追従できる。
切り返しも手応えあるフィーリングではあるが、ブレーキングからリリース、荷重移動などの操作に対しての反応はニュートラルでコントローラブル。強大なパワーを感じさせながらも、ライダーの意志から逸脱することがない。
「これがアルティメットスポーツの醍醐味だよな」。そう思いながらワインディングでHayabusaが持つ個性的なハンドリングを堪能した。
320mmのディスクローターとブレンボ製ラジアルマウントキャリパーをダブルで備えるフロントブレーキはコントロールの幅が広く、重量級の車体を確実に減速させるだけじゃなく車体姿勢の制御もできる。
路面状況を明確に伝えてくれる前後サスペンションも含め、頼もしい足まわりだといえる。
どこまでも走っていけると感じられる包容感を満喫
ワインディングを抜けて海岸沿いの街道に出た。まだ風は冷たいが、日なたはそれなりに暖かい。走っていると道沿いに菜の花が咲いているのを見かけた。少しずつではあるが春は近付いてきている。
途中、緊張した気持ちをリラックスさせるために何度か休憩した。そのとき、あらためてHayabusaを眺めてみる。「俺のバイクが世界で一番カッコイイ」と思う瞬間だ。そんな個人的な感情を抜きにしてもHayabusaの完成度の高さはかなりのもの。細部に至るまで徹底的に吟味して、妥協なく造り込んでいることが伝わってくる。
ここまで半日以上Hayabusaを走らせてきたが、ストレスはほぼない。しかし時間が経てばお腹が空いてくる。せっかく海が見える所にツーリングに来たのだから、海の幸を堪能したい。そう考えて街道を走っていると、海鮮丼のノボリを見つけ立ち寄った。
新鮮な海の幸を頬張る。こんなに盛られた海鮮丼、都会で食べたら一体いくらになるんだろう。ここまで走りに来て良かったなと思う瞬間だ。
Hayabusaのパフォーマンスと居住性の高さがあれば、半日でこんな非現実な体験ができる。それこそがバイクの持つ最大の魅力ではないだろうか。
ほどなくして日が暮れた。海に沈む太陽を眺めながらHayabusaとのショートトリップを振り返る。
高品質なリッターバイクを手に入れて好きなように走らせるということは、とても贅沢な体験だ。簡単ではないが、せっかくバイクに乗り始めたのであれば、いつかは“スズキのフラッグシップモデルに乗る”という夢を現実にしたいと多くのライダーは思うのではないだろうか。
そして今、目の前にあるHayabusaにはその情熱をかけるだけの価値があると感じた。
「よし、明日からまたがんばっていこう」
フラッグシップでの旅は、気持ちをリセットして前に進む原動力につながるものとなった。
ディテール解説
エンジン形式:水冷・4サイクル・直列4気筒 / DOHC・4バルブ
総排気量:1,339cc
最高出力:138kW〈188PS〉 / 9,700rpm
最大トルク:149N・m〈15.2kgf・m〉 / 7,000rpm
全長×全幅×全高:2,180× 735 ×1,165(mm)
シート高:800mm
燃料タンク容量:20L
車両総重量:264kg