2000年から活動を開始しているナイトロンジャパンは、日本のライダーのための専用セッティングを施して販売している。多くのノウハウを持つナイトロンジャパンがリリースするローダウン・サスペンションは、単にシート高が下がるだけではなく、高い操安性も実現した逸品だった!
ナイトロンサスペンションとは?
ナイトロンは、1998年にイギリスで設立されたサスペンションメーカーだ。創業者のガイ・エヴァンス氏は他のサスペンションブランドで得た豊富な経験を活かして「自分の理想のサスペンションを生み出す」ために自らブランドを立ち上げたのである。


ナイトロンはイギリス国内で設計されているが、最大の特徴は、ビルド・トゥー・オーダー(受注生産)方式を採用し、体重や用途に合わせて個別に製作していること。車種や用途ごとにスプリングレート、ダンパー長、減衰特性などを細かくオーダーできる。そのため世界中の多くのモータースポーツシーンで使われ、活躍しているのだ。

日本で販売されているナイトロン・サスペンションは日本専用品
ナイトロンのビルド・トゥー・オーダー方式を最大限に活かしているのが、2005年から活動しているナイトロンジャパンである。



ここで日本人の体格や道路事情などにマッチしたセッティングの製品を開発し販売している。
「そもそもサスペンションを交換するメリットって何?」という素朴な疑問に対して、ナイトロンジャパン取締役の中木さんに話を伺った。

「純正サスペンションは万人向けで、タンデムのことまで考慮されていることから硬めの設定が多い。そのため必ずしもその人にとってのベストな状態とは限りません。またコストダウンもされやすいパーツでもあるので作動性もそれなりです」と中木さん。
「対してリプレイスサスペンションはパーツの精度が高く、動きはしなやか。部品点数が多くてセッティングの幅も広くて高性能なので、交換したら乗り心地が良くなり、コーナーでの曲がりやすさや安心感が向上することは誰にでもすぐに体感してもらえると思います」
ことナイトロンは個別対応能力が高く、体格や用途に合わせてバネレートや減衰力を細かく調整できる。豊富なデータベースを活用し、最適な仕様を提供することができるのがメリットだという。

ナイトロンがリリースするローダウン・サスペンションとは
ナイトロンが持っている豊富なデータを元に開発されている製品の中で人気が高いのがローダウン・サスペンションだ。一般的に足着き性を高めるローダウンには、「シートをアンコ抜きする」「プリロードを抜いたりフォークの突き出しを増やしたりする」「リンクプレートを交換する」など、いくつかの方法がある。

しかしどの方法にもメリット、デメリットがある。
シートのアンコ抜きはスポンジの厚みが減る分、乗り心地に影響したり、形状によってはシートの角が内股にあたって痛くなることも。プリロードを抜いたりフォークの突き出しを増やしたりすると、車体のディメンションが変わるのでハンドリングに影響が出やすい。比較的メジャーでコストが抑えられるリンクプレートの交換は、サスペンションの特性が変わり、動きはじめは柔らかく動くが奥で急激に硬くなることがあるため、高速コーナーで車体の挙動が変わったり、大きめの段差で衝撃が大きく伝わってくることも。
一長一短がある中、ナイトロンが取ったローダウンの手法は「サスペンションユニット全体を専用設計する」という方法だ。

走りに影響がない範囲でストローク量を短くすることでシート高を下げる。その際、スプリングや減衰特性を専用設定にすることで、ハンドリング特性を維持したまま、ノーマルと同等以上の衝撃吸収性能を確保しているという。
その謳い文句が本当かどうか、今回は人気の製品だというローダウン・サスペンションを装着したZ900RSに試乗させてもらった。
ローダウンのネガがまったく感じられない、高品位な乗り味
販売台数でトップを誇る大人気モデル・Z900RSは、意外とシート高が高め。そのため小柄なライダーや体重が軽い女性ライダーは足着き性に悩まされることも。

ナイトロン製ローダウン・サスペンションがセットされたZ900RS(試乗車はフロントフォークもカスタムされているが自由長は同じ)は、リヤサスペンションのストロークを10mm短縮し、シート高は25mm下がっている。ナイトロンから出荷される標準仕様で体重60〜80kgのライダーまでカバーしているという。


筆者は身長165cm体重72kgで足が短い典型的な日本人体型なのだが、またがると確かに足つきはいい。これなら信号待ちなどでも不安はない。
走り出してすぐに感じたのは、乗り心地の良さだ。サスペンションの動きが良いため路面から伝わってくる衝撃がはるかに柔らかくなっている。高級感あるフィーリングだ。その感覚はペースを上げても変わらず、ワンランク上のバイクに乗っているかのよう。
そのままコーナーに進入すると荷重移動にリンクしてスムーズにバンキング。「直進安定性とハンドリングのバランスを重視。純正よりわずかにアンダーステアになるようにセッティングしている」という中木さんの言葉通り、バンク中も安定していて怖さを感じることなくスムーズに曲っていく。
驚いたのは路面が荒れた交差点に差し掛かったときだ。一瞬身構えたが、余計な衝撃が感じられなかったので、なんの不安もなく通過できたのである。これはスゴイと素直に感じた。

サスペンションを自分でいじって乗り味を変化させる楽しみもある!
ナイトロンのサスペンションは調整幅が広いのが特徴なのだが、サスペンション素人にしてみれば「どこをどういじったらどうなるのか」ということがわからない。そのためせっかく多くの調整機能がついていても活用していない人が多いのが現状だ。


しかしナイトロンサスペンションには、出荷時のセッティングを標準として、コンフォート(乗り心地重視)やワインディング向け(スポーティさ重視)のセッティング表が同梱されている。そのセッティング表を見ればユーザー自身が各部を調整して好みを探すことができる。スポーツ走行するときやタンデム、大量の荷物を積んでキャンプツーリングに行くときなどシーンにあわせてアジャストでき、常に快適な乗り心地を得ることができるのだ。
コストを補ってありあまるナイトロンの魅力
乗り心地がよくハンドリング特性も良好。ローダウン化のデメリットがほぼないナイトロン製ローダウン・サスペンションだが、ひとつだけ気になるのはコストだ。高精度の部品で組み上げられ、専用セッティングまで施されているのだから高価なのは致し方がないのだが、実は長い目で見るとそれほどでも無いことに気付く。
大きなポイントはオーバーホールできることだ。
サスペンションの内部にはオイルやガスが封入されているのだが、長期間使用していると徐々に劣化していく。またゴムのシールが傷付いたり劣化するとオイルが漏れ出して正常な機能を果たさなくなる。それは純正、リプレイスすべてのサスペンションで起こり得ることなのだが、そうなると純正の場合はユニットごと交換するしかない(一部を除く)。するとかなりの金額になってしまうのだが、多くのリプレイスサスペンションはオーバーホールすることでより安価に機能を正常化させることができる。
もちろんナイトロンもそういうアフターフォロー体制を完備している。多くの部品をストックしていることから素早い対応が可能となっているのも心強い。

しかも単にオーバーホールするだけじゃなく、仕様変更にも柔軟に対応している。ナイトロンジャパンから出荷したサスペンションはシリアルナンバーで管理されているため、どんな仕様かというデータが残っている。それを元にユーザーの好みにアジャストすることができるのだ。

これだけの体制が長期間受けられ、安心して使えるサスペンションであることを考えると、決して高価ではないことが理解してもらえると思う。
それでも「いきなり買うのはためらう」という人は、一度ナイトロンジャパンが全面協力しているテクニクスの試乗イベントに参加してみてはいかがだろうか。



サスペンションが交換されているさまざまなバイクに乗ることができ、フィーリングを体感することができる。さらにその場にいるスタッフとも話ができるので、より深くサスペンションについて理解することができるのもポイントだ。
足着き性や走りのフィーリングが大きく変わり、より愛車を好きになることができるサスペンション・チューニング。ぜひナイトロン製のサスペンションでその世界に足を踏み入れてもらいたい。








