ツーリング先などで遭遇しやすいトラブルのひとつが「バッテリー上がり」です。
バッテリーが上がった際、かつては「押しがけ」という方法でエンジンを始動させる応急処置が広く知られていました。
しかし、近年販売されている新しいバイクの多くは、構造的に押しがけができないことをご存知でしょうか。
結論から言うと、近年のFI車やAT車では押しがけはほぼ不可能です。
技術の進歩により、昔ながらの方法が通用しない理由があります。
なぜ最近のバイクは押しがけができないのか?

かつては一般的だった押しがけですが、なぜ今のバイクでは難しくなったのでしょうか。
その理由は、エンジンや燃料供給の仕組みが大きく変わったことにあります。
一般的に、バイクのエンジンをかけるときはハンドルにあるスタータースイッチを押し、バッテリーの電力でセルモーターを回転させます。
このセルモーターの力がクランクシャフトを回し、ピストンを動かすことでエンジンが目覚めるきっかけを作ります。
そして、押しがけはセルモーターの代わりに、人力とタイヤの回転を利用してクランクシャフトを回す方法です。
方法としては、まずイグニッションキーをオンにしてギアを入れ、クラッチを切った状態でバイクを押して勢いをつけます。
スピードに乗ったところでクラッチをつなぐと、リアタイヤの回転力がエンジンに逆流し、強制的にクランクシャフトを回転させることができるというわけです。
また、かつてのキャブレター車はピストンの動きで発生する負圧を利用し、機械的に燃料を吸い出すしくみです。
そのため、バッテリーが弱っていても点火プラグに火花を飛ばすわずかな電力さえあれば、エンジンを始動できる可能性がありました。
ではいったいなぜ、近年新しく販売されるバイクの多くで押しがけができないのでしょうか。
その最大の理由は、燃料供給装置が「フューエルインジェクション(FI)」へ変化したことにあります。
FI車は、コンピューター制御によって最適な量の燃料をエンジンに送り込む構造となっています。
具体的には、タンク内の燃料ポンプを電気で動かし、ガソリンに高い圧力をかけてインジェクターから噴射させるため、作動には安定した電力が不可欠です。
つまり、バッテリーが完全に上がって電力が供給されない状態では燃料ポンプ自体を動かすことができません。
また、FI車は燃料噴射や点火を制御するECU(コンピューター)も電気で動いており、バッテリー電圧が規定値以下だとECUが起動せず、始動に必要な制御がおこなわれない場合もあります。
そして、人力でバイクを押して発電機を回しても、高圧ポンプとコンピューターを同時に駆動させるほどの電力を作ることは困難です。
こういった理由から、バッテリーが完全に放電している場合、FI車での押しがけは事実上不可能とされています。
スクーターやDCT車も押しがけできない理由

また、トランスミッションやクラッチの構造的な変化も、押しがけができなくなったとされている要因のひとつです。
近年はスクーターをはじめとした、ライダーがクラッチ操作をおこなう必要がないAT車の人気が高まっています。
そして、スクーターの多くに採用されているVベルト式無段変速機は、遠心クラッチというしくみを利用しています。
これはエンジンの回転数が上がるとクラッチがつながり、動力がタイヤに伝わるしくみであり、逆に言えば、エンジンが停止している状態ではクラッチは切断されています。
そのため、人間がバイクを押してタイヤを回転させても、その力はクラッチ部分で遮断されてエンジンまで届かないため、押しがけをおこなうこと自体が不可能というわけです。
さらに、大型バイクなどで採用される「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」搭載車も同様です。
エンジン停止時は油圧が働かず、クラッチはニュートラル状態で保持されるため、スクーターと同じようにタイヤを回してもクランクシャフトを回すことはできません。
また、MT車であっても「アシスト&スリッパークラッチ」といった機構が組み込まれている場合があります。
アシスト&スリッパークラッチは、急激なシフトダウン時にタイヤがロックするのを防ぐために、タイヤ側からエンジンへ伝わる逆方向の力(バックトルク)を逃がすしくみです。
押しがけはバックトルクを利用する行為であるため、スリッパークラッチが力を逃がしてしまい、クランクを十分に回転させられない場合があります。
まとめ
現代のバイクにおいて、押しがけはバッテリー上がりの際の万能な解決策ではなくなりつつあります。
そのため、万が一のバッテリー上がりには、無理をせずロードサービスやジャンプスターターを利用することが確実で安全な対処法といえるでしょう。
そして何より、定期的にバイクを走らせるなどして、バッテリーを最良の状態に保つことが重要になります。
最近ではコンパクトなジャンプスターターを携帯するライダーも増えています。






