長時間のツーリング中に誰もが経験するお尻の痛み。おそらく、耐えながら運転することに悩むライダーはかなり居るんじゃないでしょうか。ネット上にはプロライダーやバイク屋さんなど専門性の高いブログや動画解説が既に存在しているので真新しい情報ではありませんが、今回は二輪指導員の経験をもとに考察していきます。時間に余裕がある方は、愛車の近くで読んでいただければ幸いです。
お尻の痛みの正体
ネイキッドバイクの場合、乗車位置であるシート面積は約30cm×25㎝ほど。厚みや固さは車種によって異なりますが、クルマや家具などの「椅子(シート)」と比べると明らかに小さい面積の座面に座ることになります。

この狭い座面に乗車するわけですから、ライダーの全体重が狭いシートに集中することになります。一方、私たちのお尻には隅々まで「毛細血管」が通っており、力が継続的に加われば血流が悪くなっていきます。すると、血流の悪化によってお尻の筋肉や神経が圧迫……。
また、股間や坐骨周辺への圧迫も原因の一つ。骨・筋肉・神経・血管が密集しているこのエリアに、長時間・集中的に圧力がかかると炎症や機能低下を起こします。
これらが「お尻の痛さ」として表れるのです。

小一時間程度でお尻が痛む症状が出てしまう場合、「ライダー自身の体重が乗車シートに集中し過ぎている」ことが理由の一つとして挙げられます。また「尻加重」はお尻の痛みのほかに、人車全体の重心が高くなってしまうことから、車体コントロールも難しくなる傾向になるかもしれません。
“お尻の痛み”を解消する「5つの手順」
① 体重が足(ステップ)へ移動する感覚の体験

今まで二輪教習を担当した経験から足元……つまりステップバーへ体重を分散させることが「楽な運転姿勢」を作る第一歩だと考えています。運転中に足とステップの位置が定まらないかたは「お尻バランス」の運転になっているかもしれません。すると痛くなりやすいのです。


② 「左右対称」の姿勢を意識しよう。
最初は違和感を感じて逆に安定しないと思いますが、力の加え具合を変化させて試してみてください。この時、ステップから足を踏み外さないように気を付けてください。そして「左右対称」の姿勢をとり、シートにかかる重さを分散させてみましょう。


その姿勢で同時に「ニーグリップ」を行うことで正しい運転姿勢に近づきます。近くにバイクがある方は試してみてください。ステップへ体重が移動すると「しっかり座れる」「下半身ホールド」「視野が広くなる」といった感覚を覚えるかもしれません。
しかし、実際に行うと「足首がつらい」「ニーグリップが難しい」など、最初はしっくりせず違和感だらけです。ライダーそれぞれの考え方やクセ、骨格の特徴や筋力等により慣れるまでどうしても時間がかかります。
③ つま先は前方へ向け、足の裏は地面と平行。

リーンウィズ、リーンイン、リーンアウトや中腰姿勢……状態に応じて効果的なライディングフォームを作るには、つま先を進行方向前方へ向けることが最重要ポイントであるといえます。
疲れる姿勢の一例

私の小言1.気づいたらニーグリップが抜けている。
→ 膝はつま先が向いている方向に曲がります。まず足裏と地面を平行にし進行方向に両方のつま先を向けてみてください。無理に膝に力を入れるより、骨格の向きを変えてあげましょう。
2.ステップに体重が乗らない。
→ 「足のかかと」がステップに当たっている場合は、体重を支えバランスを取ることが困難です。土踏まず、若しくは母指球付近でステップを踏んでみてください。必ず体重が安定ところがあります。
3.足首を車体に当てる。
→ 下半身は、ヒザだけでなく足首を車体に当ることでより効果を実感できるでしょう。慣れないうちは違和感ありますが、より「人車一体」になることがコツです。
④ シートの「ベスポジ」を使い分けよう。
座る位置は結構大事
走行状態に合わせ、乗車位置を前後にずらしてみましょう。シート幅は一般的にタンク側が狭く、テール側が広くなっています。幅が狭い位置に乗車するとお尻が痛くなる傾向になります。ずっと同じ乗車姿勢では、安定を図ることはできないのです。

⑤ 車体挙動を考えよう。
「楽なバイクの運転方法」を叶えるには乗車姿勢の理解が不可欠ですが、もう一つ大事な要件があります。それは、「車体挙動」の理解です。
ツーリング開始後、30分程で上半身(手・腕・肩・首など)にコリや痛みを感じるようであれば、どこか余計な負荷がかかっているサインかも。例えば、重力や遠心力等の「自然の強い力」が運転に影響しているということに一度向き合ってみると良いでしょう。

特に坂道のUターンは転倒の可能性が高くなります。
例えば、万物に影響を与えている「重力」は、身近過ぎて意識することを忘れてしまいがち。「セルフステアリング」は、重力の影響があるからこその現象です。この「重力」によりステアリングにどの方向に作用しているかを考えることが、車体挙動に関する理解のきっかけになると思います。
私の小言「バイク理論」をどれだけ学んでも、実際に乗って練習しないとわからないことばかり。理想のライディング技術習得には「学技一体」の総合知識が必要です。
「痛み」はバイクに乗らなくなる原因になる。
私たち人間の身体は「痛み」「苦痛」を継続的に受け続けることを嫌う傾向にあります。お尻が痛くなる乗り方から脱却できないでいると、乗車頻度が徐々に減少していき、いつの間にかバイクに対する熱が冷めてしまうかもしれません。
今一度運転姿勢やバイクの車体特性と向き合うことで「こんな方法があったのか!」という新しい認識に触れてみてはいかがでしょうか。








