漫画やアニメ、映画やドラマ、小説、歴史的事件などの舞台を旅する「聖地巡礼」がメジャーになってきた昨今。物語の舞台になった場所は日本中にたくさんありますが、案外、そのことを知らずにツーリングで訪れて満足していることも多いものです。 せっかく行くなら、その土地にちなんだ作品を鑑賞してから行ったほうが、絶対に楽しめますよね!そんな作品と土地について、『関西』担当著者の滝野沢優子さんから紹介していもらいます!気になった作品を見て、その場所を訪れてみましょう!
著・滝野沢優子
Route!掲載日:2019年11月6日
第1回『杉原千畝 スギハラチウネ』(2015)
杉原千畝(すぎはら・ちうね)という方をご存知でしょうか?
第二次大戦時、ナチスに迫害されていたユダヤ人たちに日本へのビザを発給し、約6000人ものユダヤ人の命を救った人物です。
ユダヤ人迫害の詳細は省きますが、当時、ドイツに占領されていたヨーロッパから退路を断たれたユダヤ人が生き延びる方法はただ一つ。陸路でロシアを横断して船で日本へ渡り、そこからアメリカなど第三国へ行くことでした。つまり、日本の通過ビザがどうしても必要でした。西側諸国ではビザ発給は望むべくもなく、ロシアに隣接するリトアニアの日本領事館が、彼らの最後の頼みの綱だったのです。
杉原千畝はその日本領事館の副領事でした。
ドイツと日本、イタリアは三国同盟を結んでいたため、当然のように日本の外務省からはユダヤ人へは発給不可の返答。でも領事館前に群がるユダヤ人たちは、日本へのビザがもらえないとナチスドイツに捕まって強制収容所送りになってしまいます。
悩んだ末、杉原は日本政府の意向に背き、人道的な立場から独自の判断でビザを発給し続けたのです。
そうして杉原から「命のビザ」を発給してもらって生き延びたユダヤ人は6000人とも言われ、その後イスラエルでは、杉原千畝は「諸国民の中の正義の人」として表彰されています。
かたや、日本に帰国した杉原千畝は外務省を免職、以後も不遇の扱いを受けました。終戦後半世紀以上経ってから夫人の著書などにより、ようやく杉原の人道的行為が評価されましたが、外務省による公式な名誉回復は、なんと2000年のこと。杉原千畝の死後14年も経っていました。唐沢寿明主演で映画化されたのはごく最近の2015年。あまりにも遅すぎた名誉回復と言わざるを得ません。
杉原千畝の話が長くなりましたが、その「命のビザ」を持ったユダヤ人たちが、何日もかけてシベリア鉄道でロシアを横断し、ウラジオストック港から船に乗って日本で最初に降り立ったのが、「敦賀港」だったんです。
以前、ヨーロッパを1年かけてツーリングした際、ナチスドイツの収容所があったアウシュビッツ(現地では「ビルケナウ」)や、リトアニア・カウナスの旧日本領事館も見学し、ユダヤ人のこと、杉原千畝のことはそれなりに知ってはいたものの、なぜか日本でのユダヤ人たちの足跡にまで思い至ることはありませんでした。
数年前に「人道の港・敦賀ムゼウム」(ムゼウムはポーランド語で「資料館」)を見つけたときも、「なんで、敦賀に杉原千畝の資料館が?」と最初は不思議に思いましたが、その理由を知って、「そうだったんだ!」と改めて杉原千畝の偉業を実感したのでした。

当時の洋館を模した瀟洒な造りのムゼウムはそれほど大きくないものの、私にとっては興味深い展示ばかりだったので、じっくりと時間をかけて見学しました。当時の新聞記事や写真などもあり、ユダヤ人たちに銭湯を無料開放したり、食べ物を差し入れしたりなど、敦賀の人々が彼らを歓迎した様子などが紹介されていました。太平洋戦争に突入する直前で、日本もまだ平和だったようです。
そうそう、敦賀市内には、現在も営業している昔ながらの銭湯もありました。

ムゼウムは敦賀港に隣接する、金ヶ崎緑地にあります。一帯には旧敦賀港駅、赤レンガ倉庫などレトロな雰囲気の建物が集まっていて、バイクと一緒に記念撮影できるポイントも多いので、敦賀にツーリングに来るなら、ぜひ立ち寄ってほしいエリアです。夕暮れ時など、なかなかいい感じに映るんですよ~。

ところで、「金ヶ崎」といえば、ピンとくる人もいるかと思いますが、織田信長最大のピンチでもあった「金ヶ崎の退き口」でも有名ですね。 敦賀港近くの小高い丘の上には金ヶ崎城跡があり、そこから港が一望に見下ろせます。70余年前、ユダヤ人たちが敦賀の町を闊歩していた様子を思い浮かべながら、私も10数年前に訪れたリトアニアやポーランド、ウラジオストックを懐かしく思い出していたのでした。 (関連リンク)
※杉原氏が生まれた岐阜県八百津町にあります
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この記事では「ツーリングマップル」協力のもと、モトメガネ編集部で記事を再編集。今後もさまざまなバイク情報を取り上げていきます。







