アドベンチャーモデルは、長距離の快適性とオフロード、オフロードを問わない高い走破性を両立する“万能型”バイクだ。スクリーンや楽なポジション、大容量タンクで舗装路でも疲れにくく、ロングストロークサスや19〜21インチのフロントタイヤ、アンダーガードの装着などで未舗装路にも強い。積載性も考慮されていることから、ビッグボディ中心で大きさが気になる人も多いことだろう。
「大きい」「重い」といった印象が強いアドベンチャータイプのバイク。しかしそんな中にもコンパクトで扱いやすい車種はある。ミドルクラスと呼ばれる400~600㏄といった等身大のアドベンチャーたちだ。
前回の前半パートではトライアンフ・Tiger Sport 660/ロイヤルエンフィールド・New Himalayan/KTM 390 ADVENTURE Rの3台を比較して、足つき性や取りまわし、積載性能などの「使い勝手」をチェックした。
後半パートとなる今回は実走テストを行い、各車の「走り」についで解説する。

3機種3様のエンジン特性



| モデル | Tiger Sport 660 | New Himalayan | KTM 390 ADVENTUR R |
|---|---|---|---|
| 冷却形式/シリンダー | 水冷/3気筒 | 水冷/単気筒 | 水冷/単気筒 |
| 総排気量(cc) | 660 | 452 | 398.7 |
| 最高出力(kW[PS]/rpm) | 59.6[81]/10,250 | 29.4[40]/8,000 | ―[45]/― |
| 最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 64[―]/6,250 | 40[4.08]/5,500 | 39[―]/― |
【パワーとトルク】
・気筒数が多い→エンジン回転数を稼ぎやすく、気筒数が多いほど高回転高出力型
・気筒数が少ない→出力は稼ぎにくいが、低回転域のトルクが厚い
【エンジンの滑らかさと振動】
・気筒数が多い→振動が少ない
・気筒数が少ない→振動が発生しやすいが、設計によって軽減することも可能
【燃費】
・気筒数が多い→各部で動く部品点数が多いなどの理由から、燃費は悪くなりがち
・気筒数が少ない→燃費は一般的に良くなる傾向だが、負荷がかかるとガクッと落ちることがある
カタログ値だけを見ると、パワー&トルクは、3気筒エンジン>単気筒エンジンが一般的。今回の3台もそのセオリーに近い乗り味となっている。しかし、ショートストローク(ピストンの直径よりも、ピストンが上下にストロークする距離のほうが短いことを指す)エンジン特性や、クランク重量の違い、ピストン圧縮比の差などによってキャラクターは大きく変わる。
キビキビ走れるか、ゆったり走れるか。エンジンの味付けは車両コンセプトに合わせて細かく設計されているのだ。
実走インプレッションは…?

結論からいえば、エンジン・ハンドリングともにスポーティなマシンはKTM 390 ADVENTURE R。次いでTiger Sport 660、New Himalayanの順。しかしアドベンチャーモデルに求められるのはスポーツ特性だけではない。乗り手を急かさない優しいキャラクターが好みのライダーもいるだろう。そうしたツアラー的な視点で評価すれば先ほどの順位は真逆になる。
アドベンチャーモデルに何を求めるか。それをイメージすれば、自分にピッタリの「旅の相棒」が見つかるハズだ。
Tiger Sport 660

スポーツ特性・ツアラー特性ともに3台の中間であると先述したが、中途半端という意味ではない。3台中唯一の3気筒エンジンはビッグバイクらしいハイパワーを楽しめるし、何よりオンロード適正がもっとも高いモデルといえる。
前後17インチキャストホイール+ハイグリップタイヤの組み合わせはワインディングやハイスピードでのコーナーワークにすぐれる。今回の実走テストでは、ほか2車がオフロード特性を意識した設計になっていた分、Tiger Sport 660のオンロード適正が光るシーンが多かった。

エンジン・クラッチ・ギヤのフィーリング
エンジンの吹け上がりがシャープで、スポーティなフィーリング。エンジンの回転上昇が早いため低回転域でのクラッチ操作は慣れが必要だが、トルクがあるため力強い推進力を感じられる。3,000rpmを超えるとパワーが増す印象で、中高回転域での伸びが気持ちいいエンジンだ。
装備






New Himalayan

かっ飛び系ではなく、安定したパワー特性でライダーを疲れさせないキャラクター。新型水冷452㏄エンジンは数値こそ公証されていないが、従来のHimalayanに搭載される空冷411㏄エンジンと同じくロングストロークエンジン(ピストンが上下する幅が広い。低速トルク型エンジン)であることは確実だろう。
そのため発進やUターンが容易で、ある程度高いギヤでもスムーズに加速する。取りまわし(おもにサイドスタンドをかけた状態からの引き起こし)で重さを感じたが、走り出せば軽快という真逆の印象を述べる意見が多かった。

エンジン・クラッチ・ギヤのフィーリング
低回転からトルクがあるおかげで半クラがしやすく、ギヤのフィーリングはなめらかで落ち着いたタッチ。エンジンを高回転まで引っ張らなくても早めのシフトアップで速度が乗るタイプで、ゆっくり走っても楽しいと感じられるジェントルなフィーリングだ。
装備






KTM 390 ADVENTURE R

フロント21インチ/リヤ18インチという公道用オフロードモデルと同様のホイールサイズを持つKTM 390 ADVENTURE R。エンジンのベースはストリートスポーツ・KTM 390 DUKEシリーズと共通で、鋭いレスポンスとハイパワーを楽しめる。
オフロードを快適に走るためにストロークの長い前後サスペンションや、高い最低地上高、アンダーガード、前後左右に体重移動させやすいシートなどの装備をもつ。「アドベンチャー=オンオフ問わないハードな冒険」とするならば、もっともアドベンチャーマシンらしいバイクだといえる。

エンジン・クラッチ・ギヤのフィーリング
アクセル開け始めのツキがよく、軽快に回るエンジン。リヤのトラクションを感じやすく、KTMらしい地面を軽快に叩いて加速する感覚が楽しめる。一方で吹け上がりが速いため、シフトアップのタイミングがせわしないという意見も。
装備






走行ステージ別インプレッション

街乗り

【Tiger Sport 660】
力強いトルクで舗装路をしなやかに加速し、足つきがいいため低速でも安心感がある。ただし加速は穏やかで、好みによっては物足りなさを感じるかもしれない。予想以上にマイルドな走りで、とくに低速域は控えめなセッティング。その分、ラフに操作しても急激な加速がなく安全…という見方もできる。3,000rpmを超えると力強さが現れ、鋭い加速感が得られる。
【New Himalayan】
足まわりに粘りと安定感があり、前後サスがよく動くため荒れた路面でも安心感が高い。低回転でももたつかず、2速や3速で回転数が足りなくてもアクセルを開ければスムーズに加速する。そのためビギナーにも扱いやすく、安心して乗ることができるだろう。見た目や取りまわしの重さに反して走りは軽快で、低速域でもスイスイ進むマシンだ。
【KTM 390 ADVENTURE R】
軽量な車体で前後荷重を作りやすく、アクセルレスポンスも良好。走り出すと軽さを一層体感でき、ハンドリングやコントロール性は非常に高い。3台中最小排気量ともあってゼロスタートはやや非力で、街中を低速で走る際はギア選びに注意が必要な場面もあった。ただ、中型クラスで基準で見れば加速は鋭く、エンジンもハンドリングも軽快でキビキビとした走りを楽しめる。
幹線道路・高速道路

【Tiger Sport 660】
中回転域の余裕と追い越し時の伸びで快適に走れ、ウインドプロテクションも良好。ビッグバイク基準でみると加速は穏やかだがアクセルを大きく開ければ十分な推進力を感じられ、高速巡航にも適している。ややスローなハンドリングだが、その分コーナリングは安定し、速度を上げても怖さはなく振動も少ない。
【New Himalayan】
加速は全体的に穏やかだがトルクの出方がなめらかで疲れにくく、中速域での一定巡航が非常に快適。直進安定性も高く、それが安心感につながっている。全開加速や高速域での再加速ではやや物足りなさを感じるが、飛ばさないライダーにとっては扱いやすいというポジティブな見方もできる。
【KTM 390 ADVENTURE R】
軽さを活かした合流やレーンチェンジは軽快。高回転では振動が出やすく、排気量の小ささからパワー不足を感じる場面もあった。中回転域でも力強さに欠け、高速域では疲労につながりそうだが、非常に曲がりやすく、ハンドリングやコントロール性の優位性が際立っていた。クイックなハンドリングのため面白さでは他車に勝る。振動も独特の味わいがあるが、軽さゆえに高速長時間走行には不向きかもしれない。
3台の特性/どんなライダーにオススメ?



Tiger Sport 660はオンロードマシンに近い安定した走りが特徴で、街乗りではマイルドさが安全性につながり、高速道路では余裕ある巡航性能を発揮する万能型だ。
New Himalayanは粘りのある足まわりと扱いやすいトルク特性で取っつきやすいく、ビギナーも安心できる。荒れた路面でも安定しており、見た目以上に軽快な走りを見せるが、高速域ではやや物足りなさも残る。
KTM 390 ADVENTURE Rは軽量さと鋭いレスポンスを楽しめる一方、排気量の小ささから高速域では振動やパワー不足を感じやすい一面も。ただしハンドリング性能は突出しており、軽快な操作感と面白さでは他車を凌ぐ。

オンロード主体のツーリングであれば万能型のTiger Sport 660。オンもオフもゆっくりと流れる景色を楽しみたいならNew Himalayan。豪華な足まわりでオフロードをキビキビと走り、オンでもスポーティなライディングを楽しみたいならKTM 390 ADVENTURE Rだろう。
和訳すると「Adventure=冒険」だが、その定義はライダーによってさまざま。どんな旅(冒険)を楽しみたいか、旅の相棒にどんな性能を求めるか。ひと口にアドベンチャーバイクと言えどキャラクターは千差万別。自身に合った旅のスタイルをイメージし、ぜひ最高の相棒をぜひ見つけ出してほしい。







