1980年代、街はホットなクルマで溢れていた。中でもライトウェイトスポーツはボーイズレーサーの憧れで、バラードスポーツCR-Xは峠道での俊敏な走りや深夜のバイパスでの軽快な加速で若者を魅了しました。そんな当時の高揚感を手軽に味わえるのがこのスケールモデルなのです。
キット制作:Sho_taroさん
80年代ボーイズレーサー御用達「ライトウェイトスポーツ」

「ライトウェイトスポーツ」とは、軽量で機敏なスポーツ性能を持つクルマのこと。車体が800〜1,200kg前後と軽く、小〜中排気量のエンジンを搭載。ドライバーの操作感をダイレクトに伝える設計で、軽さと運転の楽しさを重視しています。80年代は新車価格100万円台も多く、車種も豊富なことから20代を中心に人気を集めました。
1983年7月1日から発売されたホンダ「バラードスポーツCR-X 」は、ライトウェイトスポーツを代表するモデルです。当時のコンパクトカー「バラード」の派生車として登場しましたが、実質的には当時のシビック系のシャシーやメカニズムをベースにしています。
小さなボディにテクノロジーがぎっしり

キャッチコピーは「ライトウェイトFFスポーツ」。FFとはFront-engine, Front-wheel drive(フロントエンジン・フロントドライブ)の略で、エンジンが前にあり、前輪で車を動かす方式です。構造がシンプルで軽く、車内空間も広く取りやすいうえ、雨や雪でも安定しやすく、量産車ではコスト面でも有利なため採用に至りました。

全長3,675mm、全幅1,625mm、全高1,290mmのコンパクトボディながら、ワイド&ローのプロポーションを実現。低いフロントボンネットやセミリトラクタブル式ヘッドライト、滑らかなボディラインで空力性能にも配慮しています。
車体は軽量化が徹底され、1.3Lモデル約760kg、1.5Lモデル約800kgと非常に軽く、軽快な走りを実現。スポーティさと実用性を両立させた、ライトウェイトスポーツの真髄を体現するモデルです。のちに後に約1.6のSiを追加。1.3L(80ps) 1.5L(110ps)に対し、135psを発揮するモンスターでした。

チューニングカーを題材としたコミック「よろしくメカドック(作者・次原隆二)」では、軽量とダッシュの鋭さを活かし、ミッドシップにカスタムされたバラードスポーツCR-Xが、ゼロヨングランプリに出場していました。
キットから当時の興奮が蘇る

Sho_taroさんの作品は、実車さながらのリアリティが再現されています。当時の思い出を次のように語りました。
高校生の頃にデビューしたバラードスポーツCR-X。当時はバイクに夢中だったものの、そのコンパクトで無駄のないスタイル、そして「デュエットクルーザー」というキャッチコピーの響きに、一瞬で心を奪われました。
大人になってから再びカーモデル作りに戻った頃には、キットはすでに生産終了。それでも諦めきれず、秋葉原のレオナルドで、タバコの匂いが染みついた中古品をようやく入手しました。長い時間を経て手にしたその一箱には、当時の憧れと記憶が詰まっていて、自然と力が入り、思い入れたっぷりに仕上がりました。

デカールは経年で黄ばんでしまい、そのままでは使い物にならなかったため自作することにしました。

とくにシートの千鳥格子パターンの再現は、このキット最大の難所。説明書には「筆で描くように」とさらっと書かれているものの、さすがに無理がある(笑)。ここも割り切って自作デカールで対応し、結果的にはまずまず納得のいく仕上がりになりました(のちに再販版では、シート用デカールが付属したと聞いて少し複雑な気分ですが)。

リアのコンビネーションランプも、設計上どうにも奥行き感が乏しいのが気になるところ。モールドを深く彫り直す……ほどの気合はなく、ここも自作の“奥行きを感じさせるデカール”というエフェクトマジックでスマートにごまかしています。

完成後にぐるりと眺め回すと、やはり圧倒的にかっこいいのはサイドビュー。いわゆる「ゴーダトロンカ」と称されるそのデザインは、今見てもまったく古さを感じさせません。個人的には、日本車の歴史のなかでも指折りに美しい一台だと思っています。
今回紹介したバラードスポーツCR-Xのキットは絶版となっていますが、カスタムされた無限バージョンが販売されています。コンパクトな車体に凝縮された80sスポーツの空気感を組み立てながら追体験し、あの頃の“走り”の記憶をよみがえらせてください。
販売元:タミヤ
初回発売:2024年10月26日(無限仕様)
希望小売価格:3,080円(本体価格2,800円)
現状:販売中








