
1980年代は、原付バイクの黄金時代。スクーターや新聞配達用のビジネスバイクだけでなく、スポーツタイプ、オフロード、そしてクルーザー風など、各メーカーが個性的なモデルを発売していました。そんな中で、ひときわ不思議な存在感を放っていたのが、ホンダの「ラクーン(RACOON)」です。
ラクーンは異端という言葉がピッタリなモデルです。発売されたのは1980年3月1日。「市街地を軽快に走るレジャーバイク」というコンセプトで、スポーツ原付MB50をベースに開発されました。
こう見えてアメリカンです(自己申告)

細長いX字型のフレームに、前17インチ・後14インチのタイヤ、低めのシート、ユリゲラーの超能力(知らない人は調べてね)で曲げられたようなプルバックハンドルなど、ひと言では説明しにくいデザインが唯一無二の個性を放っていました。ホンダではこのバイクを「クルーザー(アメリカン)」と位置付けていましたが…ムリがありますね。
想像の斜め上を行くパワーユニット

エンジンは空冷2サイクル単気筒で、なんだか不思議な形をしています。タンクからサイドカバー、リアフェンダーまでが一体になったようなデザインに弁当箱のような四角いヘッドライトのアクセントがいい味を出しています。
制限速度30㎞なのにフルスケールメーター

50ccの原付は法規上30km/hしか出せないのに、90km/hまで刻まれたスピードメーターや、使い道のほとんどないタコメーターが付いているのもムダ…いや、オシャレです。
実はひねりにひねった車名かも!?

ちなみに「ラクーン」という車名には、ちょっとしたユーモアが含まれています。「楽だからラクーンなのかな?」と思った人は常識人。「ラクーンってアライグマの英語名だよね」と気づいた人は帰国子女。当時人気だったアニメ『あらいぐまラスカル』にあやかり、わかる人にだけわかるメッセージが込められていたのかも知れません。知らんけど。
竹の子族が「舞・舞・舞」で「E気持ち」

何よりヤバいのが「スーパー2サイクルの“ザ・原宿バイク”、ファッションボーイズ&ギャルズのため…」のキャッチコピーです。「原宿バイクってなによ?」って話ですよね。
実はラクーンが発売された当時、原宿の歩行者天国(最近、聞かない言葉だね)では奇抜なファッションでラジカセを囲んで踊る「竹の子族」が大流行しました。たぶんそれに便乗したと思います。竹の子族はムーブメントを起こし、金八先生で人気となった「沖田浩之(故人)」や、ビー・バップ・ハイスクールで一世を風靡した清水宏次朗を輩出しました。

清水宏次朗のデビュー当時の芸名は、竹 宏治(たけ こうじ)です。竹の子族の生みの親、大竹竹則氏がプロデュースした「これぞ竹の子族」というアイドルでした。
こんなに力を注いだにもかかわらず、デビュー曲「舞・舞・舞」のオリコンチャートはランク外という有様。当時、デパートの屋上で歌って踊っていた姿を見たことがありますが、やらされてる感満載でした。一時活動を休止した気持ちもわかります…
やべー、段々ほしくなってきた

ラクーンの販売は1982年までのわずか2年。台数も少なく、今ではレアな存在です。中古市場でも状態の良い個体はなかなか見つからず、コレクターの間で人気があります。クセは強いけれど、どこか愛らしいホンダ・ラクーン。原付50ccが消えつつある今だからこそ、もう一度その魅力を見直してみてはいかがでしょうか。

今回は北海道・北竜町のアンティークショップ「スマイル北竜本店」にご協力いただきました。レアすぎる旧車がいっぱい!今後も順を追って紹介していきますので、お楽しみに。








